【花まるコラム】『身近な存在』日下部龍

【花まるコラム】『身近な存在』日下部龍

 3月に実施した野外体験。コロナ対策をしながら約1年ぶりに実施した雪国スクールは、私たち大人だけでなく、子どもたちの協力もあり無事終えることができました。
 この雪国スクールで、自分の目標を達成した3年生のMくん。きっと参加した多くの子が同じような体験をしたと思います。Mくんが目標を達成するまでには挫折や葛藤がありました。
 Mくんが参加したコースは、ハの字で滑ったり止まったりすることができるようになったあと、リフトに乗ることを目標にしている子が多い、ベーシックコースでした。Mくんの滑りを初めて見たとき、「これは鍛えがいがあるぞ」と思いました。一人で斜面でスキーを履くことが難しく、ハの字で止まっていることができず、手を離すと勝手に滑り出してしまうような状況。
 滑るたびに、リーダーや私から「自分で止まれたね!」「いまの滑りよかったよ!」とできるようになったことを伝えられ、自信をつけていったMくん。意気揚々とスキー板を持って斜面を登り、何度も練習をしていました。その甲斐あって、みるみると上達していきましたが、練習開始から2時間がたった頃、疲れが見え始めました。また、どうしても滑るスピードが出すぎてしまい、うまく止まれないことが続きました。初めの笑顔はなくなり、滑り降りてくるたびに「早くリフトに乗りたいよ!」「俺は何でダメなの!」と怒り出しました。さらに追い打ちをかけるように、リフトに乗ることがOKになった子が増えてきて、心が折れそうになっていくのが目に見えてわかりました。体力的にも限界かなと思い、「1度休憩してまた戻っておいで」と伝えると、無言で休憩所にいる救護リーダーの元に向かっていったMくん。一人で考え込み、救護リーダーに励まされて、しばらくすると戻ってきました。「リフトに乗りたいから頑張る」と言って練習を再開。最後のほうは滑るスピードを自分で調整できるようになってきましたが、リフトに乗れるかは次の日に持ち越されました。部屋に戻ると、同じ班の子たちはMくんを励ましていましたが、仲良くしたくても悔しさもあり素直になれないMくんの姿が見られました。

 翌日、私は未経験コースのサポートをすることになり、Mくんがどうなったのかは夕方宿に戻るまでわかりませんでした。宿に戻り見回りをしていると、Mくんから私のところに近づいてきて、「リフトに乗れたよ! 諦めなかったからね」と満面の笑みで話してくれました。そして最後に、「昨日はずっとありがとう」と恥ずかしそうに言って部屋に戻って行きました。
 今回、Mくんが目標を達成できたのは、諦めず練習を続けたことはもちろんですが、周りにいた友だちや大人の応援が心の支えにもなったからでしょう。この2泊3日で経験した、葛藤体験や成功体験は、Mくんの今後にきっと活かされると信じています。帰りの電車のなかでは、班の仲間と仲良く楽しそうに過ごし、絆が深まったようでした。

 人は、目標を立て行動したとき、壁にぶつかることがあります。諦めずに頑張り続けますが、一人では壁を越えられず、心が折れそうになったり諦めそうになったりした経験は誰しもがあるのではないでしょうか。自分と向き合い乗り越えられることもあれば、誰かほかの人の力を借りて乗り越えられることもあります。これらの経験をして乗り越えたとき、人として成長し、魅力につながっていくと思います。
 野外体験だけでなく、教室でもこのような場面はあります。子どもたちが壁にぶつかったとき、すぐ近くで見守り、ときには声をかけ、壁を乗り越えるあと押しをしてあげられる存在でありたいと思います。お子さんにとって1番大きな存在は言うまでもなくご両親です。ただ、1番近くにいるからこそ気づけないこともあると、私も子育てをしていて感じます。そんなとき、気軽に頼っていただける存在でいられるように、これからもみなさんと同じ方向を見て、子どもたちを見守っていきたいと思います。

花まる学習会 日下部龍(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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