【花まるコラム】『まってるよ』金本卓也

【花まるコラム】『まってるよ』金本卓也

 私の心をポカポカと温かくしてくれる思い出のひとつに、幼いときの母との出来事があります。いくつくらいだったのかは忘れてしまったけれど、靴ひもが結べるか結べないかのときだったのできっと小学1年生くらいのときでしょう。その日は家族でデパートに出かける予定がありました。父と兄は先に家を出て車で待っていて、私と母が外に出ようとして靴を履いているときのことです。当時は誰かに手伝ってもらってやっと靴ひもが結べる状態でしたので、自分ひとりでは結べませんでした。しかし、そのときはなんだが無性に「絶対に自分ひとりだけで靴ひもを結びたい」気分だったのです。「きょうはぼくひとりでむすぶ!」と高らかに宣言してやりはじめたはいいものの、穴にひもを通すところがどうしてもできないのです。見かねた母は「手伝おうか?」と聞いてくれたのですが「いやだ!ぜったいにぼくだけでやるの!」という、ラーメン屋の亭主ばりの頑固一徹さを発揮し、自分ひとりでやり続けたのです。母も何かを悟ったのか、父と兄に事情を話してまた戻ってきてくれました。そして何も言わず、黙って私のそばにいてくれたのです。それから10分はたったでしょうか。ついに…「で、できた!!」穴にひもが通ったのです。それ以降、ひとりだけで靴ひもが結べるようになりました。「自分だけでできた!」という自信が成長の源になったのは言うまでもありません。

 この当時はなんでもない出来事だと思っていたのですが、2児の親となったいまでは母のその態度がどれだけ偉大だったかということがよくわかります。親としての私はというと…忙しい日常のなかでどうしても「はやくして!」という言葉ばかりを息子(2歳)に向けてしまっています。急かすことなく怒ることなく、できるまで待ってあげた場面がいくつあったでしょうか?特に最近は、イヤイヤ期の息子に親の感情も高ぶりがち。「じっくり待つ」なんて数えるほどしかありません。ただ単に「待つ」ということがこんなにも難しいなんて、親になる前は想像もできませんでした。

 家ではそんな感じの私ですが、授業ではごく自然に「待つ」ことができています。先日の年長授業では「立体パズル」に取り組みました。Eちゃんはどちらかというと立体問題に時間がかかる子でしたが、ひとつの問題に対して手を動かしながら「こうかな?」と一生懸命考えていました。その様子を見て、手を出さず「じっくり待つ」ことに決めました。10分後…「できた!!」大きな声で喜ぶEちゃんの姿がありました。この「自分でできた」という経験は、Eちゃんの自信に必ずつながっていきます。ヒントを早々に上げるのではなく「待つ」ことの重要性がここにあります。

 もちろん忙しい生活のなかにあっては「すべての場面で待つ」ことはかなり困難です。ただ、わが子の「挑戦したい!」という強い気持ちに気づいたときには、「待つ」ということも大事なのではないでしょうか。「待ってくれた」その時間はその子にとってかけがえのない時間になります。2021年度もたくさんの「自分でできたよ!」という笑顔が見られるように、花まる学習会はサポートし続けます。4月からもどうぞよろしくお願いいたします!

花まる学習会 金本卓也(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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