いよいよ1年生の作文書きが始まりました。今年は、お出かけや遊びに行くという「夏休み」の思い出をと伝えてしまうと、書きにくいのではと予想していました。そこで考えたのは、「テーマは身近にたくさんある」というのを紹介することです。
・すきなこと、もの
・とくいなこと
・しょうかい
・かんがえていること
・ふしぎだなとおもったこと
・みたこと(かんさつ)
すると、自分で「これを書く」と決め、えんぴつを走らせる子どもたちの姿がありました。
翌週、ある教室で2,3年生にも紹介すると、「書くことない」と口にしていた子から、「決まった!」「こういうことでも良いの?」という声が聞こえ、これまで見たことのないようなテーマや、子どもの考えや言葉を目にしました。「作文=よかったことや楽しかったことを書くもの」と子どもはとらえていたのだろうなと感じました。
そして、ある教室での出来事を思い出しました。1年生の女の子が作文のテーマに悩み、なかなか書き出すことができません。作文用紙を見つめながら、ずっと考え込んでいます。何か書き出すきっかけになればと「どんなことでも、自分の思ったことを書いてごらん」と声をかけました。それと同時に「どんなことでも」という自由度の高い声かけが、ときには子どもにとっては、「それが見つからない、浮かばないから困っているのに…」となることもあるのでは、と頭に浮かびました。それでは書くこと自体を楽しめなくなってしまうのでは、と少し幅をせばめ、私がよく伝える言葉を言いました。「楽しかったことやお出かけのことだけではなく、かなしかったこと、くやしかったことでもいいんだよ」 と。何か例を出そうかなと考えていたそのときです。そばにいた1人の女の子が「わたしはかなしいこともよくかいているよ!」と一言。その言葉を聞いて、「そうなの?」という顔をしながらも、書き出せなかった女の子は手を動かしはじめました。内容は「うれしくなかったこと」でした。これがきっかけで表現の幅がぐっと広がっていきました。このやり取りは3月のこと。花まるで作文を書き始めて半年ぐらい、成長したなと感じたことをいまでも鮮明に覚えています。
「どんなことでも」という言葉は、よかれと思って「好きなようにどうぞ」という意味合いで伝えていました。それに対し、「あっ、こうしよう」とひらめく子、テーマを思いつかない子や書きたいことがたくさんありすぎて選べない子など、子どもによって受け取り方は違います。選択肢を提示すれば、その分「これにする!」とは決めやすくなります。それを何度も繰り返すうちに、テーマを自分で決められるようになります。
作文を読むことは私にとって、子ども1人ひとりに想いを馳せていくことができる大好きな時間です。こんな出来事があったのか、こんな気持ちになったのか…と文章から直接知るものもあれば、言葉としては語られていなくても、全体を通して「このようなことを言いたかったんだな」というものもあります。どれも、そのとき子どもたちが感じたことが真っすぐに書かれているもの。だからこそ、心が揺さぶられます。短い文であったとしても、読み手の心に響く表現、その子らしさが感じられるものもたくさんあります。そのような作品に出合えることが、毎週の楽しみです。
花まる学習会 田邊紘子(2021年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。