昨年末に野外体験企画「本気で遊べ!真冬の外遊び王国」を開催しました。何をするのが楽しみか子どもたちに聞くと、圧倒的多数の「サムライ合戦」という声が返ってきました。宿に到着してからも「明日のサムライ楽しみだなぁ」「絶対勝つぞ」そんな言葉がよく飛び交っていて、彼らの期待が高まっている様子が伺えます。今回は、そのサムライ合戦で起きたある男の子のドラマをご紹介します。
2歳上の姉をもつ5年生のKくんは、典型的な弟気質で甘えん坊。楽観的で、世渡り上手なタイプです。
さて、今回のサムライ合戦は、赤・青・緑・黄色の4軍に分かれて行いました。第1戦は、大将となったKくん率いる緑軍と、赤軍の戦いでした。それぞれ円陣を組み、声を出して自分たちを鼓舞します。会場全体に緊張が走るなか、「ピー!」主審のホイッスルが鳴り、両軍が駆け出しました。太腿につけた紙風船に狙いを定めて懸命に剣を振り合います。「パン!」「あ~!やった!」「いけいけ!」「パン!」紙風船が割れる音、子どもやリーダーの歓声が会場中に響き渡ります。
そのなか、戦況は少しずつ変わっていきます。試合には「流れ」という目に見えない力が存在します。流れを引き寄せると大きな推進力になりますが、逆に流れに押されると圧力となってのしかかってきます。ジワジワと赤軍の闘気が緑軍を飲み込んでいきます。流れは赤軍に傾いていき、これは勝負あったか…そんなことを思った次の瞬間、目にも止まらぬ速さで赤軍へ駆け出す子がいました。Kくんです。大将が討ち取られたら即終了というルールは、大将を経験した子にしかわからない大きな重圧なのですが、それでも、自分が前に出て戦うしかない。このままでは負けてしまう。赤軍へ切り込む彼の姿から、確固たる決意を感じました。
意表を突いた進軍に、会場が一気に湧き上がります。しかし、残念ながら赤軍の陣地でKくんは討ち取られ、合戦終了のホイッスルが響き渡りました。うなだれ、大粒の涙を流しながら自軍に戻るKくん。しかし、そんな彼を迎え入れる緑軍の陣地は何とも温かな雰囲気に包まれていました。皆がKくんを囲み、健闘を称えます。こうして、緑軍の第1戦が幕を閉じました。
続いて第二戦。緑軍はKくんに代わり、別の男の子が大将を務めます。円陣を組むと、大将がおもむろに口を開きました。「第一戦で討ち取られたKのためにも、勝つぞ~!!」「お~!!」、固い絆で結ばれた緑軍の士気は、第一戦の時よりも確実に高まっています。しかし、当然ですが、ほかの軍も合戦を経験し結束力は強まっています。緑軍は第二戦も落とす結果になりました。
そして迎えた第三戦。何とか一勝を手にしたい緑軍ですが、またも劣勢を強いられます。流れに押され、攻撃の手が止まりはじめていたそのとき、一人の剣士が相手軍へ勢いよく攻め込んでいきました。Kくんです。護衛隊を一人、また一人と打ち倒し、敵軍の大将に迫ります。彼の表情は鬼気迫るものがありました。敵軍もKくんの猛攻を必死に食い止めます。一進一退の攻防を繰り広げ、何とKくんが相手軍の大将を討ち取りました。念願の一勝に緑軍は歓喜の渦に包まれました。その真んなかで、Kくんはまた涙を流していました。
のちにスタッフから聞いた話ですが、解散時、Kくんのお母さまにこの話を伝えると、「やっと報われました」と涙を流しながらおっしゃったそうです。甘えん坊で繊細なKくんにもっとたくましくなってほしいと思っていたお母さまは、彼が2年生の頃からサムライ合戦の企画に申し込み続けてくださっていたのです。過去2回参加したサムライ合戦では、勝てない、大将になれない、と親子で歯痒い思いを何度もしてきました。3回目の今回、お母さまとKくんが持ち続けた「いつかきっと」という強い想いが、今回の大活躍につながったのだと思います。
転んでも立ち上がる。諦めない、折れない心。家族や仲間への想い。つながるバトン。幾多の試練を乗り越えたからこそ得られたかけがえのない経験は、Kくんをよりたくましくしてくれることでしょう。またどこかで、Kくんと再会できることを楽しみにしています。
花まる学習会 鈴木和明(2022年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。