【花まるコラム】『問いへの答え方』坂口徹

【花まるコラム】『問いへの答え方』坂口徹

 「あの先生、最悪なんだよ」
4年生Rくんの何気ない一言にドキッとしました。「何が最悪なの?」「だってさ、怒ってきたんだよ!」「おー怒られたんだ」怒られることってよくあるよな~と思いつつ、なぜ彼がそういう言葉を発したのかが気になりました。「どうして最悪だと思ったの?」「だってさ、確かに僕は大声を出してたんだよ。でもさ、普通いきなり怒るかな?」「それはつまりどういうこと?」「僕だったらだよ、怒る前に絶対『何でそんな大声出してるの?』って聞くよ」その言葉にはっとさせられました。そして過去の自分の経験が頭をよぎりました。

 26歳の頃、花を生けることに夢中になった時期がありました。大きな花瓶に花を生けるので、1本2本では花が花瓶に負けてしまう。4種類か5種類くらいはあったほうがいいな、大きさもさまざまあったほうがいいかな、色もいろいろあったほうが美しいだろうな。素人ながらにそういうことを考えながら、毎週花を生けていました。また、その頃はハウスシェアをしていて、部屋の花瓶にも私が花を生けていました。あるとき、家に帰ると私が生けた花がまったく別物に変わっていました。そのとき、私の頭をある考えがよぎりました。「なんで僕が一生懸命生けた花を変えたの。ありえない。誰だ、こんなことをしたのは」怒りを抑えられませんでした。しばらくすると、一緒に暮らしている友人たちが帰ってきました。「ね、これ誰がやったの!何でこの花に変わってるの!」「あ、ごめん。変えたのは僕なんだ。花が枯れかかっていたから、新しい花にしたほうがいいかと思って。ごめん、勝手に変えちゃって」「そういうことだったのか」その言葉を聞くと、スッと怒りが収まりました。それと同時に、勝手に誤解して想像して腹を立てていた自分がとても恥ずかしくなりました。

 「Rの気持ち、すごくわかるな~。要は話を聞いてほしかったんだよね。でも、その行動だけを見て怒られたのが納得いかなかったんだね」「うん」「すごくわかる。僕も似たような経験したことあるもん。気持ちを聞いてもらえなかったんだよ、まずは聞いてほしかったんだよ、僕も。それでね、そのときからいままでいろいろな経験をしてきたよ。それでね、いま思っているのは、その怒った先生の気持ちもわかるな~ということなんだ」「え、どういうことですか?」「たとえばだよ、こういうふうにドンドンドンと自分の家のなかで壁を叩く子どもがいる。それを見たとき、どんな声をかける?『やめろ!』って言いたくならない?」「うん…」「冷静でいるときは対処できると思うんだけれど、その状況を目の前にして感情が高ぶって余裕がないときって心ない言葉が出ることってあると思うんだよね。あまりいいことではないと思うんだけれどね」「でも、僕は『何でそんなことしてんの?』って聞くと思います」「そうか~」

 世の中というものは、このように正解がないことばかりです。自分の立場から考えればAという答えが出て、相手の立場を考えるとBという答えが出る。いろいろ考えてCという答えが出ることもあるかもしれません。社会に出てからの課題解決は、答えが決まっている、毎回公式を使えば解けるという普段の学校の勉強とは大きく異なります。それゆえ、時が経てば自分の答えが変わるということも当然あるでしょう。それでも、さまざまな視点を得ることでより理想の答えに近づくことは間違いありません。私だから気づけることもあるでしょうし、子どもたちだからこそ気づくこともあるでしょう。同じ一人の人間として、互いの持ち物をシェアしつつ、よりよい生き方を模索する。学問だけでなく、より幸せにいきるための勉強をこれからも子どもたちと一緒にしていきたいと思っています。子どもたち、そして自分自身も「メシが食える大人」「魅力的な人」になれることを願って。

花まる学習会 坂口徹(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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