「人の本質は変わらない」ということばを耳にすることがあります。しかし、環境や人との出会いによって、人は変わるともいいます。考え方は変わっても、性格や本質は変わらないものなのでしょうか。
「課題をちゃんとやってきた人を画面に初めて出したときあったじゃないですか。あの日、たまたまなんですけど、私、初めて課題を全部やったときだったんですよ。課題を全部やったらなんか気持ちよくって、これからも続けようって思ったんですよ」
そうAさんが言ったのが5年生の10月。課題の提出を促すため、課題をしっかり出した子を認める取り組みを始めた週の週末のことでした。
5年生になるタイミングで転塾してきたAさん。お母さまと電話や面談のやり取りを5回以上重ね、オンラインへの期待と不安が入り混じるなかでの入塾でした。しかし、環境が変わったからといって、急に勉強をするものではありません。ましてや、嫌いなことであればなおさらです。
4年生で他塾にいた頃から算数が嫌いだったそうで、西郡学習道場に入塾してからも算数の課題に手が伸びることはありませんでした。やらなきゃいけないとは思っていても体が追いつかなかったようです。Aさんからは質問がこないので、こちらから呼び出しては、望まれていない質問対応をしていました。その際「できるようになれば変わるよ」「できるようになりそうな気がするな」と毎回声をかけていました。
2学期になって、どういう変化があったのか聞いてみましたが、わからないという返事でした。ただ、日記にはその兆候がありました。
9/2「もう少しタイムをちぢめられるように毎日やろうと思う」
9/23「めっちゃむずかしかったのでスラスラ解けるようにしたいです」
嫌いな算数に対して、1学期にはなかった前向きな言葉が、2学期には見られました。さらに11月には「自力で解けるように頑張るけれど、わからなかったら質問します」と、明確な意思が感じられる言葉に変わっていきました。
それに伴い、30点前後だった算数の確認テストが、50~60点くらいまでとれるようになっていました。けれど、それ以上にはなりません。Aさんの成長よりも算数の難易度の上昇が上回っていたため、頑張ってはいるけれど結果になかなか表れない時期が続きました。
思考を組み立てる経験が浅い子の場合、成果が出るようになるまで2~3か月くらいかかります。Aさんの場合、結果が出始めたのは6年生の2月末のことでした。
その週の内容は、毎年子どもたちが理解するのに苦しむ単元でした。日記には
2/28「今日の単元は先生もわかりづらいと言っていて、やりたくない気持ちの方が多かったけれど、自分的には1番やりやすかった?かなと思った」
とありました。
わからないところを質問し、自分なりに考えることを続けてきた結果、毎年子どもたちが頭を抱える単元でAさんは「1番やりやすかった(解きやすかった)」と言えるまでに変わっていました。次の週の確認テストでも、これまで越えられなかった60点の壁を突破して90点をとりました。算数嫌いだったAさんがここまでできるようになったことに、本人もお母さんも大喜びでした。
しかし、Aさんの変化はここで終わりません。
4/4「最近、少し難しい問題とかに直面すると楽しくなってくるんです。自分でも不思議だけれど、落ち込むよりマシかなって思ってます」
これを読んだとき、衝撃が走りました。これまで、難しい問題に出合うと笑顔になる子に出会ったことはありました。しかし、そういう子たちはみな、算数が大好きだった子でした。このような発言は、算数の才能がある子だけのものと思っていたのです。
人の本質は変わらないかもしれません。しかし、ないと思っていただけで実は才能の種がある、と気づくことができれば、変わっていけるかもしれません。信じて声をかけることで、見えていなかったものが目覚めるかもしれないとAさんが思わせてくれました。Aさんの受験までにはまだ時間があります。手を出し過ぎないよう成長を見守っていきたいと思います。
西郡学習道場 持山泰三(2022年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。