【花まるコラム】『言葉は魔法のよう』伊藤真衣

【花まるコラム】『言葉は魔法のよう』伊藤真衣

 今月の小学3年生の課題作文テーマは、「自分のいいところを作文に書いてみよう!」でした。花まるオンラインでは、宿題として事前に作文に取り組んで教室で発表します。
 迎えた授業当日の「作文発表会」の時間。子どもたちはこの時間を毎回楽しみにしているようですが、その日はなんだか、「いぇ~い!」といつものように盛り上がる子もいれば、「ついにこの時間が来てしまったぁ~!」と照れるようにしながらそっと手元の作文用紙を取り出す子もいました。

 いよいよ作文発表会が始まりました。Aちゃんは、自分のいいところをお母さんに質問し、伝えてもらったことを丁寧に言葉に残していました。その内容は、「手料理を毎日おいしそうに食べてくれること」でした。
「そっかぁ、Aちゃんがおいしそうに食べていると、きっとお母さんも幸せな気持ちになるのだろうね」
「うん。でも、聞いた瞬間は『え~!?そうなんだ』ってちょっとびっくりしました。 自分じゃ当たり前だと思っていたから…」
そのときに感じたことを、Aちゃんは改めて思い返しながら私に話してくれたのですが、自分の自然な姿そのものが、自分以外の人から見ると“いいところ”としてとらえられることもあるんだ、と初めて体感したようでした。

 続いてNちゃんは、「読むの、ちょっと恥ずかしい…。でも、頑張る!」と言い、柔らかな声色で一生懸命に作文を読んでいきます。そして最後には「……自分のいいところがわかると、なんだかすっきりしました」と笑みをこぼしながら読み上げました。そのときのNちゃんの、照れつつもやはり誇らしげな表情からは、心からそう感じて書き綴ることができたのだなと感じられました。

 今回、このテーマの課題作文を仕上げるにあたって、自分で考えて自分のいいところを見つけて書くことができた子もいれば、お母さんや友だちから聞いたことを書いた子もいました。たとえどのようなきっかけであっても、「自分ってこんなふうにいいところがある人なんだ!」という認識が心のなかに1つ芽生えること、それが子どもたちが前を向いて成長していく過程で大切なことなのかもしれません。

 私自身、幼少期に両親や祖父母から「あなたは人のいいところを見つけるのが得意だね」「そうやって素直に相手のことを褒めることができるのは、なかなかできることじゃないよ」と伝えられた記憶があります。そういった言葉は何度伝えられても、とても嬉しいものです。先程紹介したAちゃんのように、そのときまでは自覚していなかったことだったのですが、「これからもそういう人でありたい」と思えたできごとでした。

 自分で言葉にしてみる(認知する)ということが、その言葉にぴったり合った自分自身に導いてくれると私は信じています。その効果は、「自分なんて」「どうせできないし」などの後ろ向きの言葉についてもきっと同様なのでしょう。
 “言葉”はまるで魔法のようで、すべてその人自身の“行動”に出て、“意識”や“価値観”にかわっていく。どんな言葉であっても、心を動かします。
 だからこそ子どもたちには、今回知ることができた自分のいいところはもちろん、これから先もたくさんいいところに気がついて、自信につなげてほしいと願っています。子どもたちの作文のなかには、「もっと自分のいいところを増やしていきたいです!」という一文が書かれているものも。自分のいいところを認知するきっかけとなるよう、すべての子どもたちからあふれる素敵なところを一つひとつ、丁寧に言葉にして伝え続けてまいります。

花まる学習会  伊藤真衣(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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