【松島コラム】「当たり前を問う」2021年5月

【松島コラム】「当たり前を問う」2021年5月

 前千代田区立麹町中学校校長の工藤勇一先生をご存知の方も多いと思います。宿題や定期考査の廃止など、「学校の当たり前をやめた」として一躍注目を集めました。また、「学校に行きたくなければ無理に行かせる必要はない」という考え方のもと、学校とは違う新しい学びの場も増えています。これも、「学校に行くのは当たり前」という常識の変化です。

 「当たり前」を辞書で引くと、「1.そうあるべきこと。そうすべきこと。また、そのさま。」「2.普通のこと。ありふれていること。また、そのさま。並み。ありきたり。」と出てきます。語源は「当然」の当て字「当前」の訓読みだとする説が有力のようです。学校で宿題が出ることも子どもが学校に行くことも、そうあるべきでありそれが普通だと考えられてきたわけですが、そうした同調圧力の強い公教育の世界で、「やめる」という選択は本当に勇気がいることだと思います。

 この春、シグマTECHの一期生が卒業しました。対面一斉指導とオンライン個別指導を融合した新しいコンセプトの塾として2019年に立ち上げました。その初めての受験生の結果は、これまでの中学受験の世界で常識とされてきた様々なことに一石を投じるものになったのではないかと自負しております。昨今の中学受験は、小学校1年生からの席取り合戦に始まり、高学年での通塾日数や講座数の増加、大量の宿題による演習漬けなど、主体となるべき子どもを置き去りした過剰なサービスに拍車がかかっているように感じます。シグマTECHの平日の授業は、居残りを含めても8時に終わります。通塾日数は2日で、5年生からはオンラインの個別指導が1日加わります。6年生になっても平日の授業時間は変わりません。授業時間を短くすると、最低限のインプットでいかに十分なアウトプットができるかがカギになります。言い換えると、授業を集中して聞いて、あとは家で、自分で進められる子どもにとっては、塾での長い拘束時間は必ずしも必要とはいえないということです。そこで現在代表を務める伊藤の思いのもと、「受験の当たり前を変えようではないか」ということで、シグマTECHは生まれました。  

 一期生の保護者の皆さまには、こうした前例のない取り組みに大切なわが子を預けていただき、本当に感謝の言葉しかありません。子どもたちの努力、保護者の理解と協力、そしてシグマTECHの立ち上げメンバーの「必ず期待に応えます」という強い意志が一つとなった結果だと思います。改めてお礼を申し上げます。

 さて、その伊藤が『オンラインを駆使した中学受験2.0〜中学受験を魔界にしない!合格×親子の幸せを叶える! 』 (エッセンシャル出版社)を上梓いたしました。中学受験の意義を改めて問い直すとともに、受験産業に振り回されないための心得や方法などに触れながら、それぞれのご家庭に幸せな受験を経験してほしいという願いを込めた一冊です。機会がありましたらご笑覧ください。

 日ごろの子どもの様子を見ていて、「受験するなら勉強するのが当たり前でしょう」と大人は考えがちです。しかし、子どもにとっての受験はそもそも当たり前のことではありません。学校よりも難しい勉強や毎日の課題、テストや成績のこと、友達や親子関係など、言葉にはしませんがいろいろな不安や悩みを持っていることもあります。眠そうな顔で塾にやってくる子には「昨日遅くまで課題をやっていたのかな」、笑顔でやってくる子には「何かいいことがあったのかな」、いつもよりちょっと暗い顔をしている子には「お母さんに叱られたのかな」。表情はそれぞれですが、友達との遊びを我慢して、春休みも夏休みなく塾に通い続けているだけでも「よくがんばっているなあ」と思います。 

 子どもは日々成長しています。当たり前の枠にはめ過ぎず、わが子なりの受験を応援していきましょう。

スクールFC代表 松島 伸浩

 


著者|松島 伸浩

松島 伸浩 1963年生まれ、群馬県みどり市出身。現在、スクールFC代表兼花まるグループ常務取締役。教員一家に育つも、私教育の世界に飛び込み、大手進学塾で経営幹部として活躍。36歳で自塾を立ち上げ、個人、組織の両面から、「社会に出てから必要とされる『生きる力』を受験学習を通して鍛える方法はないか」を模索する。その後、花まる学習会創立時からの旧知であった高濱正伸と再会し、花まるグループに入社。教務部長、事業部長を経て現職。のべ10,000件以上の受験相談や教育相談の実績は、保護者からの絶大な支持を得ている。現在も花まる学習会やスクールFCの現場で活躍中である。

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