夏期講習から算数をがんばってきて、秋の模試でやっと成果が出てきたと思ったら、今度は国語の成績が落ちてきた。こんなとき「算数ばかりやっていたから国語の力が落ちたのでしょうか」というご相談を受けることがあります。生徒によってその理由は異なりますが、たとえば、国語の学習量が一時的に不足したために読むスピードが落ちて試験時間が足りなくなったとか、語句や知識を忘れてしまっていて点数が取れなかったなど、またその日の体調や問題との相性でも結果は変わります。原因がはっきりしていて改善できるものには対策を講じる一方で、あまり神経質になりすぎないことも大切です。しかし、この時期の模試の結果は良くも悪くも心配の種です。
だいぶ昔の話になりますが、私が担任していた6年生の受験クラスに理科が大の苦手というSくんがいました。5年生の頃から、あの手この手で理科の底上げをしようと試みましたが、理科は見るのもいやという状態が続き、親御さんも困り果てていました。第一志望校は4教科。理科を除けば合格に届きそうな成績でしたが、夏期講習以降もいっこうによくなる気配がなく、ほかの教科まで振るわなくなっていました。
そこで11月も終わろうとしていたころ、私はSくんに次のような指示を出しました。
「理科はもう過去問だけやればいいよ。過去の年度のすべての問題を覚えるくらいくり返してやりなさい。授業で出ている宿題はやらなくてもいいから、その代わり授業中は集中してきくんだよ」
本人は「本当に宿題やらなくていいんですか」と嬉しさ半分不安半分という表情でした。Sくんの場合、日々出されている理科の宿題が重荷でそれに時間がかかってしまい、ほかの勉強に支障が出ている状態でした。志望校の国算と理社は傾斜配点だったこともあり、「理科は3割くらい取れれば上出来。あとはほかの教科でカバーする」という戦略でいくことにしたのです。志望校の先生によれば、毎年ボーダーライン付近では、教科間でのばらつきがあっても総合得点で合格最低点をクリアする受験生も多いとのこと。たとえば、国算各100点、理社各75点の350点満点で210点が合格ラインだとすると、国語80点、算数60点、社会50点、理科20点でクリアできます。もっと極端な例もあるそうです。
Sくんはその学校に合格したいという気持ちは持っていましたが、どうしても理科が足を引っ張っていて合格圏内にならないことに焦っていました。ですから「理科は過去問だけやればいい」とやるべきことを絞ってあげたことで気持ちが楽になったのでしょう。出題傾向がはっきりした学校だったこともあり、過去問を何度も解いていくうちに自信がついていきました。翌年の出題傾向が変わらないことも説明会で確認していました。手応えはありましたが、受験に絶対はありません。結果は合格でしたが、もっと早い段階で対策がとれていれば余裕をもって臨めていたケースでもあります。
私は入試本番までどの教科も伸びると思っています。もちろん受験生の状況によって違います。算数で言えば、「比」をうまく使えなかった子が使えるようになると、過去問の添削などをとおして力がついてきたことがはっきりとわかります。どの学校でも「割合と比」「速さと比」「線分比と面積比」からの出題が多いわけですから、比を攻略できるようになると得点力がぐーんと上がります。5年生で習った比を使えるようになるのが6年生の秋というのは遅いように感じるかもしれませんが、小学生にとって「比」という概念は、非常に抽象度が高い実感の伴わない数字の世界なのです。応用問題のなかで比を使いこなせるようになるまでには時間がかかります。しかしひとたびコツをつかんでしまえば、以前よりも効率よく解けるようになるため試験時間に余裕ができたり、計算も楽になるのでミスを減らしたりすることができます。
ここから2か月がいちばん伸びる時期です。ご不安な点は気兼ねなく所属校の担当者までご連絡ください。わが子へのサポート、最後までよろしくお願いいたします。
スクールFC代表 松島伸浩
🌸著者|松島 伸浩
1963年生まれ、群馬県みどり市出身。現在、スクールFC代表兼花まるグループ常務取締役。教員一家に育つも、私教育の世界に飛び込み、大手進学塾で経営幹部として活躍。36歳で自塾を立ち上げ、個人、組織の両面から、「社会に出てから必要とされる『生きる力』を受験学習を通して鍛える方法はないか」を模索する。その後、花まる学習会創立時からの旧知であった高濱正伸と再会し、花まるグループに入社。教務部長、事業部長を経て現職。のべ10,000件以上の受験相談や教育相談の実績は、保護者からの絶大な支持を得ている。現在も花まる学習会やスクールFCの現場で活躍中である。