【松島コラム】『計算ミスを減らすには』 2021年3月

【松島コラム】『計算ミスを減らすには』 2021年3月

 久しぶりに算数について書きたいと思います。今年の桜蔭中学の問題です。

 桜蔭らしいと言えばそれまでですが、正確な計算力を求め続ける見た目以上に手間がかかる問題です。ただ少しずるい言い方をすれば小学校で習う内容で解くことはできます。□を使った計算(逆算)は3年生で、小数を分数に直してからの計算は6年生で習います。計算のきまり(順序)についても4年生で出てきます。あとは分数の四則計算です。ぎりぎり学習指導要領の範囲を守っているというわけですが、計算はコンピューター任せになっている大人にとっては戸惑うレベルの問題です。
 入試本番では計算問題は落とせません。正確にテキパキと解くことが求められます。問題全体をながめたあと、迷いなくスラスラと解けるようになるためには、ある程度の熟練が必要になります。ところが中学受験では学校よりも発展的な内容を扱いますから、本来小学校で数ヶ月かけて学ぶことを、塾では数回の授業だけで終わらせてしまうことがあります。一見すると学校よりも進んでいるように見えますが、「かけ足」で 学習を進めているため、基本がしっかりと身につかないまま次の単元に進んでいる可能性があります。受験直前になっても計算ミスに悩まされている子の中には、「分数計算はすべて仮分数に直して計算していた」というような変な癖が、計算ミスの原因だったということもあるのです。
 受験算数において計算ミスを減らすには、正しい手順を覚えること以外に、工夫して解くための知識を身につけることが大切です。
 18×3.14+32×3.14=(18+32)×3.14=50×3.14=157
 この問題は、分配法則※と5×3.14=15.7であることを知っていれば、頭の中で一瞬のうちに求められます。算数や数学が得意な方からすれば当たり前のことかもしれませんが、子どもにとっては数をまとめて計算するだけでも慣れるまでに時間がかかります。それでも面積や体積の計算のときは3.14をπに変えて、最後に計算するときに3.14に戻すという方法があるのですが、次のような問題ではそれが通用しません。
 3.21×3.7+32.1×0.23+1.79×6
こうしたパズルのような計算問題は、一概に「勘がいい子、センスがある子」だけが解けるというわけではありません。「どこか工夫して計算できないか」という姿勢が身についている子は、321の数の並び方にすぐにピンときます。そういう子は、たいてい学校ではないところでも数に慣れ親しんできた経験をもっています。 「Make10」という数遊びをやったことがある方は多いでしょう。切符や車のナンバーなどの数字を使って10をつくるというものです。1~9までを一回ずつ使って100をつくるという「小町算」という江戸時代からの数遊びもあります。ちなみに、+と-だけを使ってつくれる小町算は12通りあるのですが、「最も短い小町算と最も長い小町算はどんな式になるか」というお題を昨年のスーパー算数(小6対象の数理思考力育成講座)で出したところ、大いに盛り上がりました。
 数遊びが好きな子は総じて算数の成績も良好です。机に向かって勉強することだけが勉強ではなく、ゲームやクイズといった遊び感覚の中で学ぶことも算数の世界を広げるきっかけになりますから、日常生活の中で数に触れる機会をたくさんつくってあげてほしいと思います。
※分配法則の例・・・(□+〇)×△=□×△+〇×△

スクールFC代表 松島伸浩


著者|松島 伸浩

松島 伸浩 1963年生まれ、群馬県みどり市出身。現在、スクールFC代表兼花まるグループ常務取締役。教員一家に育つも、私教育の世界に飛び込み、大手進学塾で経営幹部として活躍。36歳で自塾を立ち上げ、個人、組織の両面から、「社会に出てから必要とされる『生きる力』を受験学習を通して鍛える方法はないか」を模索する。その後、花まる学習会創立時からの旧知であった高濱正伸と再会し、花まるグループに入社。教務部長、事業部長を経て現職。のべ10,000件以上の受験相談や教育相談の実績は、保護者からの絶大な支持を得ている。現在も花まる学習会やスクールFCの現場で活躍中である。

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