【花まるコラム】『正しさと美しさ』坂口徹

【花まるコラム】『正しさと美しさ』坂口徹

 「なんでルール(規則)って守らないといけないの?」
そう子どもたちに聞かれたら、みなさまはどうお答えになりますか?「ルールを守るって大事だから」「ルールを破ったらいけないから」「いや、理屈抜きに守るものだから」答えは1つではなく、いろいろあるでしょう。ありがたいことに、社会に出てお金をいただく立場になってから、それに対する答えを多くの人から教えていただきました。ある人はこのように教えてくれました。「信用を勝ち取るため」。また、ある人はこう教えてくれました。「ルールというのはみんなの安全、安心を保障するもの。たとえば交通ルール。あれがあるから安心して車を運転したり、歩行したりできる。もしそれがなくてもみんながモラルのもとに安心安全を保障できるのなら、ルールは要らない」ちなみに私の答えは「ルールを守ることで心の筋肉がつくから」です。 人生には、大変なこと、いやなことが当然おこる。そのときに、人のせいにしたり環境のせいにしたりしては幸せはやってこない。他人や環境ではなく、自分に矢印を向ける。その練習をしているんだよ、と私だったら伝えます。

 つい先日、2年生Yちゃんのお母さまからご連絡をいただきました。Yちゃんは、学校の授業で「ルールを守ること」について考えたそうです。

先日、娘の担任の先生との面談で、以下のようなことを伝えてもらいました。娘が道徳の授業で「なぜルールを守るのか」の問いに対して「ルールを守るのが楽しいから」と答えたそうです。お友達のなかにはキョトンとした子もいたそうで「どうして楽しいのか?」と先生が深堀りしたそうです。すると
「ルールを守って過ごすと、自分もお友達も気持ちよく過ごすことができるから」
「ルールを守ることで自分が成長できるのが楽しいから」
と答えたそうです。ルールを守るという、大事だけれど窮屈そうなことを楽しいととらえた娘の発想、思考に私もとても驚きました。私にはできない考え方だと思いました。何事もポジティブに受け取る娘だとは思っていますが、こういった感性を娘がなくさないように子育てをしなくてはと強く思った次第です。

 なぜ?と聞かれたら「〇〇だから」と答えるのが国語の基本です。そうすると、どうしても思考で答えを出しがち。「信用を得るために」「こういう力が身につくから」といったように損得論に帰結しがちです。Yちゃんの答えは、少し違います。「ルールを守るのが楽しいから」そして「自分もお友達も気持ちよく過ごすことができるから」。見つめているのは未来の損得ではなく「心」。しかも、Yちゃんの答えには自分の心だけでなく相手の心も大切にしたいという思いがあふれている。それゆえ「正しさ」を感じましたが、それ以上に「美しさ」を感じました。「大事だと思っているけれどできない」経験は、誰しもあると思います。それはつまり、人間には心があり、それに従って動いているから。だからこそYちゃんの答えに「納得」ではなく、「共感」したのだと思います。年を重ねるにつれ、損か得か、効率的か非効率かなど、未来を想像し頭のなかだけでついつい答えを出そうとする自分の存在に気づきます。その結果、なかなか答えが出せないこともあります。ただ、そうではなくいたってシンプルな答えは「心のなか」にある。単純にそれが「気持ちいいか気持ち悪いか」「楽しいか楽しくないか」。「いい悪い」よりも「好き嫌い」で生きている子どもたちが何気なく発した一言だからこそ、はっとさせられます。

花まる学習会 坂口徹(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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