【花まるコラム】『言葉との出合いにおめでとう』上武美貴

【花まるコラム】『言葉との出合いにおめでとう』上武美貴

 子どもたちに「この言葉の意味、知らないなぁ、と思ったことある?」と尋ねると、「…ない!」という答えが返ってくることがあります。「そんなわけないだろう!」とツッコミどころ満載ですが、きっとそれが子どもたちのリアル。意味の知らない言葉は、記憶にも残らず流れていってしまうことでしょう。だからこそ、花まる学習会の高学年コースには、「言葉調べ」という宿題があります。次回の授業で出てくる言葉や、自分が生活しているなかで初めて出合った言葉の意味を国語辞典で調べ、ノートにその言葉と意味を書いてくるというものです。
 私は昔から不思議に思っていたことがあります。それは、「初めて意味を知った言葉は、意味を知ったあとによく出てくる」ということです。エビデンス、慮る、などなど。いままでまったく知らなかったのに、意味を知った途端、身近な人がその言葉を使っていたりテレビで出てきたりして、よく聞くなぁと。能天気な私は「意味を知ったお祝いに、たくさん使ってくれているのかな?」と思っていました。いま考えればそんなはずはありません。新しい言葉との出合いによって、自分のなかの引き出しが増えたからこそ、それまで気に留めていなかった言葉に気づけるようになったのです。子どもたちにも、意味の知らない言葉と出合ったときには一歩立ち止まり、調べる習慣をつけてもらいたいと考えています。 

 そんな「言葉調べ」という宿題を4~6年生の3年間、決して手を抜くことなくやり遂げたHくん。この3月に小学校を卒業し、同時に花まる学習会も卒業しました。最後の日には、いつも通り宿題を出しました。そのなかにはもちろん言葉調べも。20個の言葉を調べるという、「最後の宿題」を出しました。「絶対にやってきます」と宣言して帰ったHくん。さすがだなぁと思っていました。
 時は流れて、4月。Hくんには新4年生になるYくんという弟がいます。6年生の最後の花まるのときに、「弟を迎えに来るときに、宿題を持ってきます」と話していたHくん。約束通り、Yくんの授業後に、すべての宿題をやり遂げて持ってきていました。そのなかには言葉調べも。しっかりとやり遂げるところが素晴らしいなぁと思っていました。適応、勉学、メンタル、メリハリ、感謝…さまざまな言葉が並んでいるなと思いながら、ノートをめくると、最後のページにはHくんからのサプライズが…!

 4/8の20個の言葉で書いた文章です。ぜひ読んでください。これからの決意表明です。

どんな時も真剣になり、集中できるようになります。楽ばかり求めすぎず、楽があれば、その分苦があることを考えていきます。弱かったメンタルをきたえていき、メロディーのように、ときにはまわりに適応していく力もつけます。乱れることなどもってのほか。とにかく楽しむことを忘れないようにします。メリハリがつくていどにしますが。仲間も増やし、どんなときも助け合い心遣いも身につけます。もうちょっと優しくなります。頑張って勉学にも、いま以上励んでいきます。そして、身近なことこそ、常に感謝の気持ちをもつに絶対になります。本当に今までありがとうございました。

 なんと調べた言葉をすべて使って、メッセージを書いてくれたのです! Hくんのまっすぐな性格がひしひしと伝わってくるメッセージ。こんなことが書けるなんて…! 胸にぐっとこみ上げてくるものがありました。
 いままで知らなかった言葉の意味を知ることで、世界が広がっていきます。大人の仲間入りのした気分になったり、言い表せなかった気持ちを相手に伝えられるようになったり。その喜びを感じてもらいたいし、楽しんでもらいたい。だからこそ、新たな言葉との出合いにおめでとう! そんな言葉を子どもたちに送ります。
 ちなみに…最後には「弟をよろしくお願いします」と言って深々とお辞儀をして帰ったHくん。どこまでいい男なんでしょう! これからの成長がとっても楽しみです。またいつでも帰ってきてね。

花まる学習会 上武美貴(2023年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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