【花まるコラム】『自分で決めること』佐々木真音

【花まるコラム】『自分で決めること』佐々木真音

 私は学生時代、子どもたちが自由に遊べる場所づくりの活動に参加していました。「自分の責任で自由に遊ぶ」をモットーに、子どもたちの「やってみたい!」「作ってみたい!」という気持ちに寄り添い、創作のサポートをしていました。
 ある日、男の子が「椅子を作りたい!」と言ってきました。木材や工具はすでに用意してあります。木材選びの段階から、男の子の頭のなかではでさまざまな選択が始まっていました。目に留まったものをあれやこれや触っては置いて、触っては置いてを繰り返していました。
 「これは使えそうだな」と思ったものがあると、木材同士を組み合わせてみて、自分の頭のなかで思い描く「椅子」に向けて試行錯誤していました。そして、「ここに釘を打ちたい」と言えば、基本的には、子ども自身に打ってもらいます。すべてをやってあげては、その子の成長につながらないと思うからです。子どもが実際にやってみて、気づきを得て、改善していく。その過程で子どもたちは思考をめぐらせているのです。
 最初、男の子は金槌を釘に上手く当てられず、当たったかと思えば、釘が曲がったり、釘が木材を貫通したりして思い通りにはいきませんでした。ですが、徐々にコツを掴み、打ち方が上手くなり、椅子の原型が作られていきました。適宜、「金槌は真っ直ぐ下ろすこと」や「金槌はあまり振り上げなくてよい」といったアドバイスはしていましたが、最後までやり遂げたのは男の子自身でした。たくさんの試行錯誤を経て、椅子が完成しました。
 完成に至るまでに、男の子がどれだけ自分で考えられていたか、私はその機会をどれだけ提供できたか、が大事だと思っています。

 花まる学習会では、「メシが食える大人」に育てるという理念を掲げていますが、「メシが食える大人」の一つの要素は「自己決定」だと思っています。自分の意思で、自分の人生を歩んでいける人。誰かに決められた人生ではなく、「自分」が決めたかどうかが重要です。
 花まるの低学年コースの授業に、なぞぺーという教材があります。「迷路」「立体問題」「論理」などの思考力問題を集めた教材です。子どもたちがたくさん手を動かして考えることを大事にしているので、正解をすぐに教えることはしません。時にヒントを出しながら正解へ導きますが、「できた」「できなかった」ということよりも、「どれだけ考えられたか」、その過程を重視しています。
 なかには、選択肢のある問題もあります。適当に「これかな?」と答えることもできますが、それでは意味がありません。そのため、「よくよく考えて、一発で正解するようにやってみよう!」と伝え、時には「どうしてこの番号を選んだの?」と理由を聞くこともあります。正解を早く導き出すことも大事な力ですが、正解を見つけるために、考え続けることも大事な力です。

 いまの世の中の正解が十年後、二十年後には正解ではなくなっていることもあるかもしれません。予測不能な時代、子どもたちが大人になったとき、自分で考えて自分が正しいと思う道を歩んでいってほしい。その想いで引き続き、子どもたちの指導をしてまいります。

花まる学習会 佐々木真音(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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