「幸せな受験」を実現するために志望校選びが非常に重要であることは、これまでも度々お伝えしてきましたが、逆境を乗り越えて合格を勝ち取る子どもたちのなかには、「絶対にこの学校に合格するんだ」という強い気持ちをもっていた子が多かったように思います。
Sさんは6年生のときにオープンスクールに行って、「もうここしかない」という一目ぼれで第一志望校を決めました。ほかの学校見学にも行ったのですが目には入らず、最初は「その学校以外は受けない」というくらい強い憧れを抱いていました。その学校の過去問は、スピード、読解力、記述力が求められる特徴的な傾向をもつ学校でしたから、はじめて取り組んだ過去問演習では算数が100点満点中15点、ほかの教科も散々な結果に終わりました。しかし、彼女はまったく動じませんでした。「私はここしか行かない」という思いは日に日に強くなり、前受けや押さえの学校の受験を頑なに拒むような状況でした。
最終的には埼玉の学校を一校受験することになったのですが、都内はその学校一本という強気の姿勢は変わりませんでした。頑固一徹な彼女の受験はこのあとも波乱が続きます。勝ち進んできた小学校のバスケットボールの試合が入試日と重なったので、埼玉の学校は受験しないと言い出したのです。「優勝がかかっているし、チームみんなでここまでやってきたのに私だけ休むわけにはいかない」と親に直訴。別の日にほかの学校を受けることを条件に試合に出ることを承諾せざるを得ませんでした。彼女にとっては行きたい学校はあくまで一つということなのです。
12月頃には過去問の成績も少しずつよくなり、模試の結果も五分五分くらいまでもっていくことができました。しかし決して合格圏とは言えません。本人は直前になってもひたすら過去問を何度も何度も解き直し、その学校一点にかけていました。
1回目の入試の日がやってきました。私は一番入りやすいと言われているこの日の入試で決めてほしいと願っていました。しかしその願いは届きませんでした。強気だった彼女も一瞬落ち込んでいましたが、すぐに切り替えて2回目の入試に挑みました。もうここで合格できないと3回目は相当に厳しい入試になります。祈る思いで朗報を待ちましたが、2回目も結果は出ませんでした。さすがにガックリきているだろうなぁと思いきや、さばさばした顔でSさんは塾の自学室に来ていました。入試問題の解き直しを黙々とやっているその後ろ姿には気迫を感じました。お母さんは不安で何も手につかない状態でしたが、そんなときも彼女は「絶対受かるから大丈夫!」と言っていたそうです。3回目の入試は激戦です。ここがダメだったら公立中への進学が決まります。しかし、彼女はそんなことは微塵も考えていなかったのでしょう。Sさんの思いは最後に通じました。
合格の報告に来てくれた彼女の晴れやかな表情に比べると、お母さんの疲労と安堵の表情が印象的でした。公立に行くことも覚悟しての受験校決定でしたが、Sさん自身はただまっすぐに憧れの学校に進むことだけを思い描いていました。もちろんこういう形の受験はおすすめできませんが、「絶対にここに行きたい」という子どものモチベーションは強力な武器になります。来年受験するご家庭のみなさまには、どんな状況であっても気持ちを盛り上げて本番に臨めるよう、前向きな言葉かけをお願いいたします。私たちもすべての受験生のすべての入試が終わるまで全力でサポートしてまいります。
最後になりましたが、今年一年も新型コロナウィルス感染症対策をはじめ、さまざまな場面でご理解・ご協力をくださり、本当にありがとうございました。2023年がみなさまにとって幸せな一年になりますようお祈りしております。
スクールFC代表 松島伸浩
🌸著者|松島 伸浩
1963年生まれ、群馬県みどり市出身。現在、スクールFC代表兼花まるグループ常務取締役。教員一家に育つも、私教育の世界に飛び込み、大手進学塾で経営幹部として活躍。36歳で自塾を立ち上げ、個人、組織の両面から、「社会に出てから必要とされる『生きる力』を受験学習を通して鍛える方法はないか」を模索する。その後、花まる学習会創立時からの旧知であった高濱正伸と再会し、花まるグループに入社。教務部長、事業部長を経て現職。のべ10,000件以上の受験相談や教育相談の実績は、保護者からの絶大な支持を得ている。現在も花まる学習会やスクールFCの現場で活躍中である。