【高濱コラム】『夏休みの過ごし方』 2021年6月

【高濱コラム】『夏休みの過ごし方』 2021年6月

 コロナに不安を抱きながら迎える二回目の夏休みが、もうすぐやってきます。ワクチン接種の拡大にともなって、夜が明けるように暗黒から少しずつ薄明が広がってはいくでしょう。しかし、まだまだ外を安易に出歩くことは憚られる。「この夏どうしよう」とお考えの方も多いでしょう。
 もちろん全員PCR検査や抗原検査で陰性確認をして、バブル方式(そこに関わるメンバー以外、外部の人とは接触させない)を採用するイベントは安全度が高いので、そのようなチャンスを見つけて参加させれば、心配は少なくすみます。花まるのサマースクールもその一つです。では、家庭では具体案として何が考えられるか。家族だけでのキャンプは、ほぼまったく問題ない。しかし、子どもの心の安定に必要な、友達とくっついてのゴニョゴニョキャーキャーのぬくもり時間がとれません。私のアイデアは、三家族くらいできちんと取り決めして、一つの家族として一緒にキャンプなどをすることです。前もっての陰性確認があると安心度も高いでしょう。これなら、くっついて遊んだり一緒に寝たりという時間をたっぷりとれます。各家庭は外の人間との接触を避けることに責任を持つし、万が一誰かが感染してしまっても、家族の一員の問題として協力する。言わば「三家族バブル方式」、または「大家族計画」です。元々、複数家族の親全員でみんなの子どもたちを育てるという深いお付き合いのあるご家庭では、お母さんの心の安定度がすこぶる高いなと感じていたことから思いつきました。ご一考ください。

 ところで、家族旅行などのイベントには、どういう意味があるか考えたことはありますか。何となく「思い出作り」とか、「楽しいから」という答えが返ってきそうですが、よーく考えると小さくない出費もあるし、迷子や怪我を心配してハラハラしたりイライラしたり、結構なストレスもあります。それなのに、なぜ行くのでしょう。みんなも行くから?実はこれは、大学生時代の私の疑問の一つです。私自身、幼児期の旅などほとんど覚えていないし、高学年以降にもなると、親との旅行より部活や友達との時間の方が何倍も楽しかったし…。一体何のためなのだろう、と。
 これについて、ブランドプロデューサーでシバジム社長の柴田陽子さんが、参考になることをおっしゃっていました。自身が猛烈に働く母で時間が極めて限られているからこそ、子育てで力を注いでいることが、イベントなのだと。限定された時間でも「記憶に残るイベント」になるように、旅にせよ誕生日パーティーにせよ、工夫を凝らし頑張るのだそうです。そしてそれは何のためかというと、自分の幸せ感、親には可愛がられたなという自信などを感じるときに、人は必ずエピソードの記憶とともにあるから、ということでした。確かにそうだなと深く感じ入りました。たとえば先月号で書いた、父との初めてのキャッチボールの記憶などは、私があまりに切実に心の底で求め過ぎていたから戸惑ったという当時の現実こそあれ、結局は、私の幸せ感の核を形成する確かな1ピースになっています。そのエピソードの背景に、母の深い慈愛、父の優しさを感じるからです。
 雪が、芯になる物質が存在するおかげで結晶するように、イベントエピソードの断片の記憶があるおかげで、幸せが、確かに感じられるものとして人の心に構成される。柴田さんのお話を伺っていて、家族旅行とはつまり、そういう確かな意義があるなと感じたのでした。実際、うちの妻が何度も話題にする家族5人の旅のエピソードがあります。確か1970年の万博のときだったと思いますが、自家用車で移動中に、二人いる弟の兄の方が車中でおもらしをしてしまった。大騒ぎとなったが、車の長旅なので仕方なく、昔の新聞社の旗のように車のアンテナにパンツを干しながら行った、というものです。それを語るとき、妻は確かにとても穏やかな笑顔に満ちます。そのエピソードを語ることで、「5人で一つ」だった家族の温かさが実感として蘇るからでしょう。

 さて、夏休みの現実は、旅先よりも家(の中)で過ごす時間の方が長い人が多いでしょう。その時間をどう充実させるか。ゲームやYouTubeばかりでない、確かに子どもたちの成長に寄与する時間を過ごさせてあげたい。具体策をいくつお持ちでしょうか。
 これについては、中島さち子さんとの対談で出た話題が参考になりそうです。中島さんは、女子で数学オリンピックの金メダル受賞者は、ずっと長い間彼女一人しかいなかったという才あふれる人物。雑誌での対談で出たのは、女子の数学力の話題でした。問題意識としては、なぜ高校段階くらいまでくると、数学は男子の方が得意になるのかということでした。中島さん曰く、思春期にもなると、スピードや点数や勝ち負けを競い合うことを、女子は嫌う傾向がある。しかし、「誰かを助ける」ためとか「日々の生活を改善する」ためとかに数学が役に立つという視点で、数学ワークショップなどをやると女子こそ目が輝く。そして「自由研究」として数学と生活の関わりを研究させたりすると、むしろ女子たちがすごく良い研究発表をする、というものでした。そうかもしれないなとうなずきながらお話を聞いていたのですが、私が心を奪われたのは、彼女の口から何度も出る「数学の創造的楽しさ・喜び」という言葉でした。
 わかったような気持ちになって当日は終わったのですが、私のなかでは「いや待てよ。所詮『入試問題対策屋』として算数・数学を見つめ仕事をしてきた自分は、数学の研究者としての醍醐味を、知らないまま仕事をしてきたのかもしれない」という自己懐疑が膨らんできました。そこで、ある日たまたま同じフロアで(PC打ち込みの)仕事をしていた、「いもいも」の井本陽久先生に、「中島さんは何度も『数学の創造的な面』って言うんだけど、思い当たることあります?」と聞いたのです。
 すると、井本氏は、自身が長年、栄光学園で行ってきた、ある問題からどんどん問題自体を変更したり、そのたびに解答をあらゆる角度から吟味したりする指導法を、丁寧に教えてくれました。それは、眠かった目がバチっと覚める、深くておもしろくてオリジナリティの高い、唯一無二の授業の仕方でした。さすがだと感じたし、私の役割は、中島さんや井本先生のような本物の中の本物が親しくしてくれている幸運を活かして、多くの子どもたちに、創造的な数学の喜びを伝えることだと感じました。
 創造性という点で、間違いなく子どもたちに伝えられる一つの方法は「問題を自ら作る喜び」を経験させることです。人間の理解度には段階があります。「授業を聞いて何となくわかる」からスタートして「間違いなくしっかり理解できたと感じる」「スラスラ解ける」となり、最後は「他人に大事なポイントを含め説明できる」というのと並んで「自ら問題を作ることができる」というレベルに達します。最初は、迷路からが作りやすいでしょう。続いて、なぞぺーのようなパズル(特に初心者は、ナンバーリンクとスクエアパズルがお勧めです)。
 もうこの段階で、最高難度の問題でも作成できますが、親子の出題合戦などを通じて、多様なパズルや、いま流行りの謎解き、普通の算数の文章題問題など、創作を自由に楽しんでほしいと思います。私の長年の経験からしても、問題作成を楽しんだ子は、ほぼ間違いなくあと伸びしたなと感じています。長い夏休みを有意義に楽しく過ごす一つの方法として、参考になさってください。

花まる学習会代表 高濱正伸

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著者|高濱 正伸

高濱 正伸 花まる学習会代表、NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長、算数オリンピック委員会作問委員、日本棋院理事。1959年熊本県生まれ。東京大学卒、同大学院修了。1993年、「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、「花まる学習会」を設立。「親だからできること」など大好評の講演会は全国で年間約130開催しており、これまでにのべ20万人以上が参加している。『伸び続ける子が育つお母さんの習慣』『算数脳パズルなぞぺ~』シリーズ、『メシが食える大人になる!よのなかルールブック』など、著書多数。

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