高濱コラム

【高濱コラム】『ありのままに』2021年1月

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 年末に終了したテレビドラマが良かったと妻が言うので、あらすじを聞いていて、なるほどそれはおもしろいと感じました。3人の恋をする母たちの物語、と言うと安っぽく聞こえるかもしれませんが、人間を見つめ現代を見つめる透徹した目を感じました。もともと漫画らしいのですが、その作家さんの感性・観察力が傑出しているのでしょう。

 視聴している女心を絡め取るドラマが、様々に展開されたらしいのですが、結末を聞いて膝を打ちました。主役の一人Aさん(専業主婦、夫は妻の心に全く寄り添えない)は、離婚を息子が手助けしてくれ、めでたく想う人と結婚。Bさん(シングルマザー)は、恋の相手とようやく幸せに結ばれるも、住んでみて結局「お互い好きだけど同居はつらい」という結論に達し、仕事上ではそばにいて、あとはなりゆきという道を選ぶ。Cさん(バリキャリ)は、元部下ともろもろあって、ドラマチックに結ばれるのですが、彼女は「結婚はもうこりごり」ということで、事実婚を選択…。まあ概ねこんなストーリーです。

 観てもいないのに、私が心を動かされたのは、今に命中しているなーと感じたからです。昭和までの恋愛物語は世界中ワンパターンでした。「結婚できるかできないか」のみがテーマで、二人の関係を邪魔するあれこれの障害を乗り越えて結ばれるハッピーエンドや逆の悲劇が、一つのお定まりでした。例えば、映画「卒業」などが象徴的です。

 それに比べて、この物語の主人公たちは、結ばれ方も幸せもまったく異なる。「結婚」という言語の意味を再構築させようとしているかのようです。「常識に囚われない」し、「人目を気にしない」し、自分の気持ちに忠実に生きようとしていて、その感性の中でパートナーと「人それぞれ」のつながり方をしています。常識観の破壊とも言えるし、現代で流行している言葉で言うと「多様性」が、もっともその特徴を示しているかもしれません。半世紀近くになる女性の生き方の解放運動の行きつく一つのゴールが、具体的に描かれているとも言えます。

 「人それぞれ」とは、言葉を変えれば各人が「ありのままに」生きるということです。ありのままに。これは、結婚に限らず現代人が幸せになるためのキーワードです。私は、周りの人々を観察しながら、「幸せか不幸せか」にこそ注目してきたのですが、つい他人と自分を比べてしまうという、人間誰にもある性癖である「比較」からの自由と、他人に何と言われるかを気にしない「人目」からの自由こそが、幸せな人生への鍵だなと考えています。

 ありのままに生きようとするときに、大事なのは、心の本当の声を聴けるかどうかでしょう。心の本当の声?そんなもの、誰だってわかるでしょうと言う人がいるかもしれませんが、実際は、見失っている人をたくさん見てきました。人が決めた価値基準(世間の常識・価格・偏差値・ランキング等)や、周辺の人(特に親)が期待する枠組みでの成功などにこだわっているときに、しばしば見られます。ありがちな例で言うと、本当は絵を描くことこそ最高の幸せで画家になりたいのだが、「それじゃ食べられないでしょ。普通の就職をしなさい」と親に勧められて、普通の企業就職を選ぶというようなことです。人生に正解不正解はないので、それはそれで選んだあと、その枠組みで喜びを見出し満喫することも実際にあります。しかし基本構造としては、心の底から、自分の興味関心や問題意識をベースにその仕事を選んだのであれば、迷いも悔いもやらされ感もないのですが、入り口での決定が「他人の価値観」にゆだねているために、澱のように苦い思いがこびりつきます。

 もう一つ、見失っているなーと感じるのは、「心の深い部分」での納得を大切にしていないパターンです。一応の答えと、無意識に近いくらい深いところで、実は望んでいる答え。「頭ではわかってるんだけど…」と、どうしても引っかかる感じが残ることって、ありますよね。それについては、先日ある大学の先生と対談しているときに、理解が半歩前進した気がしました。
 彼が言ったのは、子育てにおいて一番大事なのは、結局親自身が幸せに生きることなのだということです。たとえば、子どものためと信じて「本を読みなさい」と上から言うのではなく、親自身が「本を読んでいる時間って、なんて幸せなんだろう」と生きてみせること。つまりは、親自身が人生を満喫し、感謝し幸福に生きていることが、子どもを幸福にするということ。HUC(母親アップデートコミュニティ)の「親の役割の前にまず自分の幸せに焦点を当てる」という方針にも通じますし、私が「母の笑顔こそ一番大事」と言っていることも、まったく同じことを表しています。
 おもしろかったのは、そこで彼が脳の構造について触れたことです。生物は同根で、アメーバなどの原始生物からスタートして、どんどん進化してきたのですが、その中で脳がだんだん肥大化していった。反応に近いことをつかさどる延髄などの脳幹の周りに、小脳、大脳と発達した順番で存在しているなかで、大脳こそが膨大な知識を扱えるようにし、文化・文明を創造してきた人類の力の根源なのだが、一見あまり役立っていないような部分も実はフル活用している。

 子どもの幸せにとって、なぜ親自身の幸せが大事かというと、子が「全身全霊で親を感じているから」である。全身全霊の意味は、「脳の全部で」とも言えて、言語が進化する以前に使用していた脳の中心部分こそを使って、母親の機嫌や心持ちを感じているのだろうということです。これには、深く納得しました。テレパシーや第六感と表現されるものに近いのでしょう。たとえば赤ちゃんは言葉など一語も使えない頃から、親の心をキャッチしていることは明らかです。

 秋頃に、あるご家族の車に同乗させてもらいました。遠方にある施設の見学が目的で、半日一緒だったのですが、帰り道、障がいを持つ赤ちゃんについて、ご両親が「今日はずいぶん機嫌がいいね」「なんだろう、調子よいね」と語り合っていたので、私は即座に「それは、お母さんが安心しているからですよ」と答えました。道中、様々な質問を私が受け止め共感し続けていました。お母さんからは「なるほどー」「そっか、よかったー」というような言葉がたくさん出ていました。車という閉じた空間で、夫や相談者を含め全員が自分の不安を傾聴し分かち合ってくれ続けた。途中の雑談でも共感が何度も生まれた。そのことで、母が安心し、全身全霊で母を感じている赤ちゃんが安らいだのです。

 私が言いたいのは、この赤ちゃんが感じている感覚こそ、脳の深い部分での感知そのものだということです。世界は常に天候のように変化し、嵐のような日もあるのが当たり前です。そんな中、私たちの一番の願いが子どもの健やかな成長であるならば、母親が、つながった人たちの助けを借りて、ありのままに生きられることが大事。そのためにこそ、ありのままの頂上にいる赤ちゃんから学ぶことは多いかもしれません。
    

花まる学習会代表 高濱正伸


著者|高濱 正伸

高濱 正伸 花まる学習会代表、NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長、算数オリンピック委員会作問委員、日本棋院理事。1959年熊本県生まれ。東京大学卒、同大学院修了。1993年、「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、「花まる学習会」を設立。「親だからできること」など大好評の講演会は全国で年間約130開催しており、これまでにのべ20万人以上が参加している。『伸び続ける子が育つお母さんの習慣』『算数脳パズルなぞぺ~』シリーズ、『メシが食える大人になる!よのなかルールブック』など、著書多数。

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