教育哲学

【高濱コラム】 『澄み切った世界』2020年7月

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♪君の人生を見つめてごらん
君はやりたいことを
やっているかな
一度きりのこの人生は
君の心ひとつで自由になるものさ
( 中略 )
生きてることに疲れたとき
失敗だらけで悲しいときは
思い出そう 目を閉じて
幼い頃の澄み切った世界を

チューリップ 「心を開いて」

先日運転中に、私の10代のアイドルであったチューリップの歌声が聞こえてきました。
青春の影・心の旅・サボテンの花のような有名な曲ではありませんが、財津和夫さんが「売れ筋」から「自分の言いたいこと」をアルバムにしたというので、強く印象に残っていた曲です。
「詩よりメロディ派」であった当時の私は、そもそも歌詞は重視しておらず、口ずさみながらも「フーン、まあありがちな内容だよね」とわかった気になっていたものです。

しかし、40年以上たって人生模様をあまた目撃してきた今、本当にこの通りだな、実は深い歌詞だったんだなと、価値を再認識しました。
大事なことを聞いても、言葉の真意を感知できないことは、しばしば起こることです。
特に、 「思い出そう 幼いころの澄み切った世界を」の一点が心に刺さりました。
ちょうど最近、この幼児の感覚の大事さを体得していることこそが、幸せを手に入れられるかどうかの分岐点だなと、かみしめていたのです。

それは、自分の心を捉えているかどうか、 自分の心が何に動く ( 魅了され、感動する ) のかを、見切れているかどうかです。
そんなの当り前だろう?
いえいえ、多くの大人が、幼いときの感覚を喪失して、人目を気にして生きてしまうというのか、価格・数字・評判の高さ・偏差値・ランキング・ブランド・他人の評価など、外付けの価値観に蹂躙されていくものなのだなあと、私は感じています。

この点で、おお!と感動することがありました。
私が講演会ごとに「奇跡の母親コミュニティ」と推薦している HUC( 母親アップデートコミュニティ ) に関してです。
このコミュニティのすごさは、表現しきれないものがあります。
お母さんたちがサークルを作り、その一年後に、100人を超える規模になっているのに、みなさんの表情がキラキラと輝き充実しているのを目の前で見たときの驚きは、忘れられません。
何が起こったんだ!?と括目したものです。

当時は、そこで解説された、会の唯一の方針である「誰も否定しない」という神ルールに心を奪われ、そうかそういうことかと納得しました。
実際、山ほどの人の集まりの歴史を見てきましたが、仲良しだったはずなのに、 「あの人常識無いよね」という類の批判が勃発し、 仲間割れや排除が始まり、だんだん人数が減っていくという事例を、 何度も見てきたからです。

そして一方で、平和で、人心の運営が見事になされている組織を、数えるほどとはいえ知っているのですが、そのどれもが異口同音に 「メンバー同士を否定しない」というルールを設けていることを知っていたからです。

ところが、先日そのHUCのリーダーであるなつみっくすさんと対談して、ただそれだけではなく、深く考え抜かれた哲学が通貫しているのだなと知りました。
例えば、単に否定しないというだけではなく、 「受け入れはしないかもしれないが、必ず受け止める」という姿勢。
共働き・専業・シングル・ハウスハズバンドのいるバリキャリなど、立場はそれぞれで、言われる意見を聞いても必ずしも「いいね」と共感できるわけではないことは、あることなのだ、しかし 「否定せず傾聴し受け止める」ことこそが重要な基本姿勢なのだという、透徹した見識がそこにあります。
ほかにも「一人の100歩より、100人の一歩」 「毎日ほんの少し (0.2%≒3分 ) の成長をすれば、長期的に大きな成長につながる」というようなビジョンも卓見で、世界を幸せにするなと感じました。

そして何よりも、母の役割や社会でのありようを考える前に、まず一番に「個人としての幸せ」を見据え追求すべきだという厳とした方針を聞いたときには、殴られるような衝撃がありました。

それは、長年の相談の経験で、本当に多くのお母さんたちが「私は良い母でない」というような眼で自分を否定しがちだと知っていたし、それはたとえば外で働くと「かわいそう」と言われることに象徴される、因習・文化・常識との軋轢に負けしてしまうということであり、つまりは自分の心ではなく、外にどう評価されるかを気にしている姿勢から発生するものなのだと感じていたからです。
そこで行うべきは、自分の心をまっすぐに見つめて、 「本当は私は何を幸せと感じるのかな」という問いに答えることでしょう。
しかし、「人の間」というくらい人の群れの中で生きる人間にとって、人目を気にせず自分の心に正直になることは、難しいものなのです。

ちょうど、7月でリアルの授業に戻ってみて、 子どもたちのその面での「澄み切った世界」を痛感しました。
何が嬉しいのかヒョコヒョコと左右に変な歩き方をしてはゲタゲタ笑っている少年、彼は誰の目もはばからず純粋に今おもしろいと感じることに専心しています。
また、年中の授業が「新聞で遊ぶ」という回だったときのこと。大勢の子どもたちがちぎった新聞の (大人から見たらゴミの)山が部屋の片隅に山積みになっていました。
すると、次の時間の授業のために到着した1年生も3年生も、見るなり目を輝かせて、 「ああ!ねえ先生、新聞に入っていい?」と聞いてきました。
これです。
実は赤ちゃんこそ、 もっともっとピュアに自分の関心に忠実に生きているのですが、低学年くらいまではまだまだこんなに、感じたままに行動できるのです。

「澄み切った世界」とは、 「その瞬間瞬間の己の関心に忠実である状態」ことでしょう。
もちろん、大人になるということは、すなわち「人目を気にするようになること」 なのかもしれません。
しかし、そういう自分を認識しつつも、一方で、本当は消しゴムのカスを集めたい気持ちや、新聞紙の山に飛び込みたい気持ち ( のように、本当に自分の心の内側に沸き起こる、 感情や何かをやりたい気持ち )を、 見失わないでいたいものです。
「関心」だけは、その人に決められる、譲れないものですから。


花まる学習会代表 高濱 正伸


著者|高濱 正伸

高濱 正伸 花まる学習会代表、NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長、算数オリンピック委員会作問委員、日本棋院理事。1959年熊本県生まれ。東京大学卒、同大学院修了。1993年、「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、「花まる学習会」を設立。「親だからできること」など大好評の講演会は全国で年間約130開催しており、これまでにのべ20万人以上が参加している。『伸び続ける子が育つお母さんの習慣』『算数脳パズルなぞぺ~』シリーズ、『メシが食える大人になる!よのなかルールブック』など、著書多数。

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