教育哲学

【高濱コラム】 『書いてみる・相談してみる』2020年9月

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海賊ラジオの「ちょっときいてよ!高濱先生」に、小学2年生の男の子のことで相談がありました。概略はこうです。

休校中は学校を楽しみにしていたのだが、リアル授業が始まってみると、担任の方針で決まりごとが何かと多くて、行きたくないと言い出した。
一番辛いのは、自由がないこと。
自分の裁量で何もできず退屈だ。毎日通ってはいるけれど、つまらないと毎日こぼす。
学校ではいま一つ意欲が湧かないようだ。
学校で作る創作物の生き物の目が死んでいる。
こんなレベルの理不尽は軽くいなしてほしいと思いつつ、もやもやしている。
一か月でもうたくさん。
先が思いやられる。
どうすればよいでしょう。

収録直前にこのメールを見たときの第一感は、「こういう先生いるよなー、悪気なんかないんだけど、良かれと思って大事なものを見損なっているパターンだよな」というものでした。
でも先生の考えを直接聞いたわけではないし、ここは解決策を言うのではなく、「自分の裁量でいろいろと決められないことはすごく苦しいことですよね」と寄り添う方向で答えようかなと想像していました。
ところが、このメールには投稿日の異なる2通目があったのです。
それには、こうありました。

一通目を出した後、担任の先生と話す機会がありました。
一度目と印象が変わりました。
前回の相談を受けて、子どもの様子をよく見ていてくれることが伝わったし、クラスで決められた役割を果たそうと頑張っているわが子像を伝えられました。
そこには、家庭ではわからなかった子どもの成長が見え、安心感を得ました。
子どもは学校で頑張った分、きついと感じた部分を家庭でこぼしていたんだな、それを私が100%受け取って、過剰に心配してしまったかもしれないと反省しました。
私が心配し、あれやこれやと手を打つので、きっと子どもも不調を訴えれば母親が手厚くなると無意識に感じ取ってしまったのかもしれないと、自分の対応を見直す機会になりました。
息子も笑顔が増え、学習へのモチベーションも、回復してきたと感じています。

どうでしょう。
たまたま収録までの間に、このお母さんは壁を乗り越えたのですが、いろいろな学びに満ちた連投メールです。
一つは、一通目だけで私が答えていたら、ずれた回答になっていただろうということ。
下手をすると担任の先生を悪者にして不信感をあおるようなことを言ってしまったかもしれません。
いかに事象を双方向あるいは立体的に検証することが大切かということでもあり、相談される立場として教訓になりました。

このお母さんは上手に呪いから逃れていますが、一番大きな学びは、「子の言い分だけを鵜呑みにして事件化することの怖さ」です。
幼稚園や小学校を運営する側や、担任をやったことがある方が一度は経験する「子の訴え鵜呑みの思い込みクレーム」です。学校でこんなにつらいことがあると子どもが訴える。
愛情溢れるからこそ、わが子が嘘など言うわけはないと100%真に受けて、同級生とその家族や担任の先生方を相手に、「どうしてくれるんだ」と苦情を訴える。
悪気などありません。
わが子を守りたいだけです。
少し経って状況がよく見えれば、なんだ少し大げさに言っていただけだったんだなとか、うちの子にも問題があったんだななどと、視界が開けることもあるのです。

こういうケースをたくさん見てきた私ですら、今回同じ轍を踏む寸前だったのですから、親御さんが陥らないことはむしろ難しいでしょう。
だって、愛しのわが子が悲しげに訴えてくるのですから。 

ただし、このような文章を読んで、「なるほどそういうことも、親の『あるある』なんだな」と、知っておくだけでも心の構えに余裕が出るでしょう。
今回のケースもそうかもしれませんが、多いのは、
①お母さんが曇っている(不安や苛立ちに包まれている)、または忙しくてこっちを見てくれない。
   ↓
②何とか関心を引きたいと願っている。
   ↓
③たまたま学校で辛いと訴えたら、すごく思いのこもった目で「え!誰にやられているって?」等と、反応してくれる。=自分のことに集中してくれる。
   ↓
④意識的にせよ無意識にせよ、その関心を引きたくて、大げさに被害者としてふるまったり、中には嘘を交えたりすることもある。

というような基本構造です。
つまり一言でいえば、本質は「私を見てほしい」ということです。
私が「『心がけ』ではなく『予定表として』一日5分でもよいので、二人っきりでお話しする時間をとってほしい」と言っている目的ともつながります。

ちなみに、二通目のメールはこう結ばれていました。

 私自身は、一度高濱先生宛に相談メールを書かせていただいたときから不思議と気持ちが吹っ切れ、子どもへの対応も少しドライになり(前は超ウエットでした)、担任の先生への思いも、きちんと向き合って関係を築こうという前向きな気持ちになりました。このような相談窓口を作っていただいたことに、心から感謝申し上げます。

これも素晴らしい自己観察力だし、どの保護者にも当てはまる学びです。
「書くこと」と「聞いてもらうこと」。
誰かにわかってもらおうと文章にすることは、面倒にも思えますが、間違いなくスッキリします。
日記のように自分のために書いてすら、そうです。
悩み相談を書いているうちに、自然と答えが自分の中に湧きあがってくるという経験をした方も多いのではないでしょうか。
それは茫漠としたイライラや不安の問題点を見える化し、俯瞰することになるからだと思います。
口頭で訴えるよりも文章化することの方が、間違いなくおすすめです。

聞いてもらうことの価値は、女性陣からすると、今更言うまでもないかもしれませんね。
でも、やはり真実です。
分かち合う力。
いつでも傾聴してくれる友人が多い人は、気持ちが安定しているな、と何度実感したかわかりません。
このお母さんの場合、聞いてもらっているイメージだけでも、心が軽くなったのかもしれませんし、そうであれば、番組を作っているスタッフみんなの喜びです。

今は、講演会での質問コーナーだけでなく、この海賊ラジオや、NHKラジオ「らじるラボ」の相談コーナーでも定期的に相談に答えています。
困ったことがありましたらぜひ送ってみてくださいね。
不安を言葉にして書いてみるきっかけになれば十分ですし、私自身も迷ったり学んだりしながら、少しでも力になれるよう精一杯お答えします。
   

花まる学習会代表 高濱正伸


著者|高濱 正伸

高濱 正伸 花まる学習会代表、NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長、算数オリンピック委員会作問委員、日本棋院理事。1959年熊本県生まれ。東京大学卒、同大学院修了。1993年、「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、「花まる学習会」を設立。「親だからできること」など大好評の講演会は全国で年間約130開催しており、これまでにのべ20万人以上が参加している。『伸び続ける子が育つお母さんの習慣』『算数脳パズルなぞぺ~』シリーズ、『メシが食える大人になる!よのなかルールブック』など、著書多数。

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