【花まるコラム】『照れ屋なヒーロー』土方日向

【花まるコラム】『照れ屋なヒーロー』土方日向

 私が小学5年生の頃、学校の算数の授業で、問題を早く解けた子から挑戦できる特別問題がありました。自由に立ち歩くことができ、誰かと一緒に考えている子もいれば、私のように一人で解いている子もいました。そこで先生が発したあるアナウンスがきっかけとなり、ヒーローが誕生したのです。

 「まだどのクラスでも、正解者は出ていません!」
そんなアナウンスを聞いたら、目立ちたがり屋の私は一段と熱が入る。これを解いたら、ヒーローになれる。その瞬間を妄想し、ニヤッとする。
 逸る気持ちを感じながら、頭をフル回転させる。そして。「あれ? できちゃったかも……!」ドキドキしながら先生のところへ持っていくと、驚いた表情で大きな声を出す先生。「すごい! 日向くんがクリアしました!」
 ガヤガヤしていた教室が、一瞬静まり返った。一気に注目を浴びる私。妄想していた光景が現実に起きたのだが、嬉しさとともに、恥ずかしさもあった。目立ちたがり屋のくせに、実際に注目を浴びると照れてしまうのだ。それはいまでも変わらない。
 「え!? どうやったの!?」と近くに集まるクラスメイト。「えっとね~」と、少し照れながらも、頼りにされていることが嬉しくて、思わず頬が緩む。教室がまた、賑やかさを取り戻した。

 あのアナウンスが、やる気を出させるための嘘だった可能性もあります。いまではそんなことを考えられるほど、心も成長しました。もちろん、当時の私は先生の言葉を疑うことはせず、素直に「やってやるぞ!」という気持ちになれました。なかには、まったくあの言葉が刺さらなかった子もいるかもしれません。子どもの心というのは純粋そのものですが、どんな言葉が刺さるかは千差万別なのです。
 しかし、誰かひとりの心が強く動けば、まわりの子にも刺激を与えることがあります。それこそが、集団授業のよさの一つです。

 低学年クラスの授業では、古典を素読する「たんぽぽ」という教材を扱っています。毎月異なる古典を暗唱することができれば、たんぽぽ検定に合格です。
 「今月、クリアした子はまだ一人もいません!」
私がそうアナウンスすると、3年生のAくんの目の色が変わりました。彼もまた、ヒーローになる自分を夢見たのかもしれません。すぐに覚えはじめるAくん。目を閉じながら確認したり、歩きまわりながら音読してみたりと、1秒たりとも無駄にする様子はありません。そして、見事たんぽぽ検定に合格しました。「Aくんが、たんぽぽ検定に合格しました!」小さくガッツポーズをしたあと、拍手の渦の中を笑顔で、そして少しうつむきながら席に戻るAくん。見つけた! 照れ屋なヒーローだ!
 席に戻ったAくんは、そのまま前月、前々月のたんぽぽ検定にも挑戦し、見事合格。一回目の挑戦が自信につながったようです。
 Aくんの挑戦が、波を起こしました。「え! すごい! 私もやる!」同じく3年生のBちゃん。Aくんに刺激を受け、同じく3か月分のたんぽぽ検定に合格しました。そのほかの子も合わせて、一日でたんぽぽ検定に挑戦した子の数は過去最多となったのです。

 子どもたちの挑戦意欲を高める鍵は、「その子に響く声かけ」にあります。一人ひとりの性格や成熟度を把握しなければ、それを見出すことはできません。子どもたちとの日々のかかわりすべてに意味があり、私たちの発する言葉に還元されていくのです。自分が照れ屋だということを忘れてしまうくらいの「やってやるぞ!」を引き出せるように、日々精進してまいります。

花まる学習会 土方日向(2024年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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