【花まるコラム】『机の下からこんにちは』箕浦健治

【花まるコラム】『机の下からこんにちは』箕浦健治

 はじめて出会ったのは、Kくんが3年生の頃。
 Kくんは無口で、私が「こうしてほしいなぁ」ということの逆の行動をとる子どもでした。皆が教室で座っていても、Kくんは教室の隅にいて、出入り口のガラス戸に顔をくっつけずっと外を眺めていました。私が「席に戻ろうか」と声をかけても、椅子の近くまでは行きますが、決して座ろうとはしませんでした。ただ思考力教材「なぞぺー」の時間になると、説明する私の足元に座り、話を聞いていました。
私「Kくん、なぞぺーやりたいの?」
Kくん「……」
私「聞いているだけでも勉強になるんだよ、それでいいよ」
Kくん「……」
ということが1か月ほど続きました。
 ある日の帰り際にKくんのお母さんと話すことができました。お母さんはKくんの教室での様子を知っています。
「すべて先生にお任せします。ご迷惑なら言ってください。あの子は家でも同じなんですよー。特に机の下が好きなんです!」
その「机の下が好き」「つくえの下が好き」「つくえのしたがすき」という言葉が私の頭の中を何十回、いや何百回もめぐっていました。

 次の授業日。なぞぺーまではいつも通りのKくん。私はワクワクしながらそのときを待ちました。いつも通り私がなぞぺーの説明をします。Kくんもいつも通り、私の足元に来て説明を聞いています。説明が終わり私の足元にいるKくんにこう言いました。
「なぞぺー、机の下でやってみる?」
その言葉を聞いたKくんが「うん、やるー!」と聞いたこともないような声で答えました。心のなかでガッツポーズをし、私も机の下にもぐりました。机の下は決して広いわけでなく、かといって寝転ぶわけにもいかず、胡坐をかいて首を曲げた状態でKくんと一緒になぞぺーをしました。まわりの子が興味深く見にきますが、Kくんはお構いなしです。10分足らずでその日に取り組むページを終わらせてしまいました。そしてKくんが「あーあ。スッキリしたー」と立ち上がり、椅子に座りました。Kくんが椅子に座る姿を1か月ぶりに見ることができました。それからというもの、なぞぺーまでは椅子に座り、なぞぺーになると机の下で取り組むということが定着し、年度末を迎えました。私の教室異動があり、Kくんとお別れすることになりました。最後の授業でKくんに異動することを伝えても、「じゃあねー!」と言い、いつも通り帰っていきました。彼らしいと思いながら、その背中に見えなくなるまで手を振り続けました。

 その別れから2年が経ちました。インフルエンザが流行したことで、Kくんのいる教室に私が代行で行くことになりました。2年経ってもKくんとの楽しい思い出が色あせることはありません。
 高学年の時間になり、身長が20センチ以上伸びたKくんが教室に入ってきました。普通に椅子に座り、連絡帳や宿題を担当講師に提出しています。それだけで涙が出そうになり、こみあげてくるものがありました。私が近づいていくと、それを察したKくんが机の下に潜りました。机の下をのぞき込んだ私に、いままでで一番いい笑顔で「こんにちは!」と挨拶してくれました。彼なりの表現が、私にとって最高のプレゼントになりました。あのとき、無理やりやらせたり、叱ったりしなくてよかったと心から思いました。
 「芽は伸びる。そういうふうにできている」花まるの合言葉です。子どもたちはいろいろな方向に伸びていきますが、やがてまっすぐ伸びるのを邪魔しないように、お預かりしたお子さまを大切に育てていきます。

花まる学習会 箕浦健治(2024年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

花まるコラムカテゴリの最新記事