「根性があり、自分が決めたことはやり通す人です」
5歳の子どもを形容したこの言葉を見て、みなさんはどんなことを思い浮かべますか? 幼いながらも、その子らしさがすでに芽を出しているように感じられますね。そしてきっとこのあとには、「でも、こんなところもあるんです」と続くのだろうと想像する方もいるでしょう。
実のところ、どちらも正解です。
この言葉は、私が幼稚園の年長の頃、担任だった中田先生からいただいたものです。当時の私は、超がつく人見知りで、しゃべらない子どもでしたが、なぜか中田先生の前では心を開くことができました。
なぜ先生にだけ心を許せたのか――。その理由が腑に落ちたのは、ずっとあとになってからでした。母が大切に保管していた、当時の連絡帳を読み返したときのことです。
個性的であまり話さず、ちょっぴり落ち着きすぎて見えたゆみちゃん。いまは私の手にしがみついてくれます。そして、さみしくしている子に優しくしてくれます。私、本当に嬉しかったんです。あのとき、ゆみちゃんがいてくれなかったら、もっとTくんを苦しい思いにさせていたのではと思います。
母のページにも、その日のことが書かれていました。
いつだったか、幼稚園から帰るなりただいまも言わず「ママ、中田先生が喜んでくれてん、ありがとう、嬉しいわってゆうてくれはってん(言ってくださった)」と興奮して言ったことがありました。そのときのあの喜びに満ちた表情を私はいまも忘れられません。どんな賞賛よりも嬉しかったのでしょう。“親切ややさしさ”を言葉で教えられるより“体験として、喜びとして学ぶ”ことができたのです。
子どもの頃、大人から褒められることはあっても、それはあくまで「子どもよりも偉い大人から」の「評価の言葉」で、それはそれでイヤなものではありませんでしたが、そこに「尊敬」という響きはありませんでした。
大人は、子どもよりも長く生きていて、知識も経験もある。だからつい無意識に「子どもよりも偉い」と思ってしまいがちです。
けれど中田先生は、ちがいました。年齢や立場に関係なく、一人の人として私を見てくれていた。考え方や行動のなかに良きものを感じ取れば、大人に対するときと同じように、敬意をもって接してくれたのだと思います。私はその姿勢に、幼いながらも深く反応していたのでしょう。
花まるの年中コースや小学生の作文、Atelier for KIDsでのアートを通した教育でも、作品や表現のなかに光る「その子らしさのタネ」を見つめ、それを言葉にして伝えることを大切にしています。
目の前にいる子どもたちは、きっと私を超えて、立派な人になっていく。そう信じて、尊敬の思いをもって向き合うと、自然とその子の素晴らしい面がたくさん見えてきます。
そして、それを伝えたくなるのです。かつて中田先生が、私の母にそうしてくれたように。
5歳の私が出会った中田先生と過ごした日々。あの一年間が教育者としてのいまの私につながっている。そのことに、不思議な運命のようなものを感じずにはいられません。
「人として敬う」という姿勢を、本当に大切なこととして、先生のなかに見ていたように思えるのです。
井岡 由実(Rin)
🌸著者|井岡由実(RIN)
国内外での創作・音楽活動や展示を続けながら、 「芸術を通した感性の育成」をテーマに「ARTのとびら」を主宰。教育×ARTの交わるところを世の中に発信し続けている。著書に『こころと頭を同時に伸ばすAI時代の子育て』 (実務教育出版)ほか。

「Atelier for KIDs」は、 小さなアーティストたちのための創作ワークショップです。
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