【花まるコラム】『20光年の先に』梅崎隆義

【花まるコラム】『20光年の先に』梅崎隆義

 授業終わり、子どもたちを見送るため外に出ると「曇っていて見えないね……」と残念そうな声が聴こえました。スーパームーンが見えることを期待していたのでしょう。見上げれば雲の奥にぼんやりと金色が見えます。風がないのでしばらく雲は動かないでしょう。
 父親の趣味で、実家には天体望遠鏡がありました。小学校高学年になって、望遠鏡を自由に使ってよいと言われると、月食だの彗星が近づいただのというニュースを聞くたびに、重い望遠鏡をベランダに引っ張り出していました。学校で扱い方を習うのは顕微鏡くらいなので、目的の天体を見る時間よりも角度とピント合わせをしている時間のほうが数倍長い、というありさまです。だからこそ片目を通して広がる世界に堂々とした月や彗星が現れたときの感動はひとしおで、角度がほんの少しでもずれないように慎重に固定して「見えた見えた! みんなも見なよ!」と、階下で団欒する家族に報せに走ったものでした。あたかも新しい惑星を発見した中世の天文学者のような気分でいる私に、家族というギャラリーはレンズを覗き込んでからささやかな喝采を送って去っていきます。皮肉なことに、テレビで放送している映像の方が数倍見やすいことを知っているのでしょう。一人ぼっちになった小さな天文学者は、次はみんなをあっと言わせる大発見をしてやろうと画策します。私の場合はUFOと宇宙人でした。
 この田舎に偵察に来ている宇宙人はきっと目立たないように移動しているに違いないと考え、山の稜線にレンズを向けて定点観測の位置を少しずつずらしていきます。時折走る赤い光は車で、四角い黄色は民家か山小屋か。じりじりと視点を上げていくと……見つけた! 怪しげな明かりが3つ人工的に並んでいるのは紛れもなくUFOだ! これまた家族を呼び出して、あれは山の道路の照明の大きいやつだ、と野暮ったらしい答えをもらっては次の標的を探しにかかり……。そうこうやっているうちに、寒さに耐えかねて天体観測という名の宇宙人さがしは幕を閉じるのでした。

 先日、スクールFC での5年生の理科の授業は「水の循環」がテーマでした。太陽のまわりをいくつかの惑星が回っているという話からスタート。たまたまバランスのとれる位置にあった地球の上では、海水が蒸発して雨が降ってのサイクルが成り立ち、植物と動物が生きていくのにちょうどよい酸素と二酸化炭素ができて……、とレクチャーが進んでいきます。広い宇宙には太陽のような恒星はたくさんあるよ、と添えると「じゃあ条件さえあえば宇宙人がいる、ということですか!?」と筋の良い質問が飛び出します。いつの時代も「宇宙人」は子どもから大きな関心を集めているようです。ちなみに食いつきのよい話題でいうと「タイムマシン」「深海巨大生物」あたりがランクインしますが、このあたりのこぼれ話はまたの機会にとっておきましょう。
 1週間後、先の質問を投げかけた彼が、本気で調べごとをした結果を報告しにきてくれました。聞くところによれば、「グリーゼ581」という恒星が、地球から20光年先(光の速さで20年かかる距離)にあるとのこと。太陽のように赤く輝くこの星のまわりには、ぐるぐると回る惑星がいくつかあり、そのなかの1つである「グリーゼ581c」は、生命が存在できる表面温度の岩石惑星であることが報告されていたそうです! ここまでくると立派な調査といえます。教科書はテキストだけではないのだなあ、と改めて実感しました。

 望遠鏡を覗き込んでいたあの頃の私の姿は、20年の宇宙の旅の末、遠く離れた星に届いていたのかもしれません。ちょうどそのとき、地球に向かって立派な天体望遠鏡を向ける宇宙人の少年がいて、レンズ越しに目が合っていたのかもしれない。恥ずかしながらも本気で思っています。

花まる学習会 梅崎隆義(2023年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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