【高濱コラム】『おせっかい』 2024年2月

【高濱コラム】『おせっかい』 2024年2月

 能登半島地震に飛行機事故と、大荒れの正月として一年がスタートしました。すぐに「一年の計は元旦にありと言うし、今年は大変な年になるのでは」というような、非科学的な不安を煽る言説がSNSで飛び交うなど、メンタルの弱い人には体に悪い幕開けであったかもしれません。
 しかし、この二日間を過ごして私が感じたのは、この国は大丈夫だということです。まず地震ですが、確かに大きかったし、半島で山間という特異な地形ゆえの交通遮断の問題が深刻だとか、古い木造建築の町の脆弱さや火災の広がりやすさが露見したというような問題はあったし、いくつかの自治体には復興への長期的課題がのしかかっている現状ではあると思いますが、国家全体として被災対応については進化を感じました。マグニチュード9を超す「1000年に一度」の東日本大震災で言われたのは、大地が100年くらいのオーダーで「活発期」に入ったのであろうし、その期間は震度7を超す大地震や噴火等が各地で時を置いて繰り返されるだろうということです。熊本地震や今回の能登半島地震は、その通りになっているだけです。
 何よりも、ほんの何件かの悪質な(再生数欲しさの)デマ流布や、火事場泥棒的な屋根修理詐欺などを起こす哀れな人間はいるにはいましたが、大多数は助け合いの精神を発揮し、被害のない地域からは簡易トイレを載せたトラックなど、一斉に支援の行動が起こりました。とにもかくにもと個人が助けたい善意でボランティアとして入り込んで、美談のようで実は交通渋滞を引き起こしたというような多くの過去の経験から、送るものも古着や千羽鶴などでない、必需品かつまとまった単位で送ってもらうよう即座に要望が出されるなど、いろいろな点で確実に大地震対応のレベルが上がったとも感じました。
 もともとそうなのだけれど、この火山だらけの島国に住む我々は、時々の大災害は「あるもの」として受け入れ、何度でも何度でも復興してきたのです。いたずらに不安を煽る言説には惑わされないで、元気な地域の人は自粛などせずどんどん経済を回し、傷ついた方々への寄り添う気持ちを忘れず、惜しみない支援を続けるべきなのでしょう。

 また、航空機事故は、たくさん感じるものがありました。まず飛行機同士の接触による大きな爆発と火だるまになって滑走路を走ってくるJAL機のテレビ第一報の画面を見たときに、すぐに感じたのは「あー、これは最悪の事故だな。犠牲者の数は大変なことになるぞ」ということでした。しかしやがて「乗客乗員は全員無事、という情報が入りました」という続報が。「いや、それはないだろう」と誤報として受け取りましたが、事実でした。
 世界中から奇跡と称賛された現場の実態は、スマホで撮られたであろう動画として残っていますが、機内がどのようであったかを見事に伝えています。まずはCAさんたちの冷静な対応に驚きます。炎に包まれているなかで乗客を落ち着かせるための声かけ、煙を吸わないための明確な指示、平行してどのドアから出るべきかのスタッフ同士の確認作業、決定後の毅然たる誘導。見事としか言えないチームワークです。そして不安でパニックになりそうな乗客へ「大丈夫、乗務員の指示に従おう」と声をかけている、別の乗客の危機対応の覚悟と胆力。ドアを一旦開いたが最後、たちまち機内に入り込んでくる炎のなかで、最後に、最後尾までの点検をして降り立った機長のプロフェッショナルとしてのふるまい。どれもこれも、本当に感動するレベルですごいものでした。関係するみんながこんな態度で対応することのできる乗務員や乗客が、ほかの国で一つでもあるだろうかという、「集団としての強さ」の事例を歴史に残しました。これは、学校で掃除をしたりきちんと並んだりするなどの教育の成果であり、自信を持って良い価値だと感じました。
 そして、何よりすごいなと思うのは、15年くらい前の、会社としての破産があったにもかかわらずここに至ったという生命体としての会社の再生具合です。稲盛氏や特別編成された経営改革チームが、いかに慧眼で、的に命中する一手一手を再生の初手として打っていたかということを痛感させられて、一経営者として私は、そのことに何よりも感動します。最新ニュースとして、もと子会社出身の短大卒のCAさんが社長になるという一報も入ってきました。その前の社長もパイロット出身であることからは、組織体として柔軟で実力主義で過去の偏見を払拭した強靭さを備えたことが伺えます。その組織としてより健全で丈夫になる流れのなかで、事故対応の大規模研修施設の設立もあったし、その施設での手を抜かない毎日の厳しい研修の積み重ねの実態があったからこそ、一連の尊敬すべき事故対応があったのでしょう。
 私たちは大丈夫だ、と感じざるをえません。ことさらに個人として目立とうとはしないけれど、反省を生かし組織として真摯な研修を実現し、結果として強靭な組織を作り上げることに成功したJALの事例は、多くの会社人にも勇気を与えるし、国全体としても希望を与えるなと感じます。

 まもなく新年度です。一つの事象を見て嘆いたり批判したりするだけではなく、良い一面を見るとか、何か一つでもそこから学ぶなど、肯定的な見方で希望を見つめる日々を過ごしていきたいですね。世界を肯定的にとらえられる子どもたちを育てるためにも。
 さて、私の本年の一つのテーマは「おせっかい」です。この欄で書いたこともありますが、この2年くらいで数件の夫婦喧嘩(というより離婚危機)の仲裁に入ったのですが、その多くが仲直りし、なかにはむしろ以前より仲良くなったご夫婦すらあります。私がやったのは、「解決しよう」というのではなく「間に入って、双方の話を一つひとつ繰り返したり要約したりする」ということだけです。しかしこれは有効でした。二者だけで向かい合っていると感情のぶつかり合いや揚げ足取りになったりして対立構造からなかなか抜けられないのですが、一人の第三者がそこにいるだけで当事者二人の気持ちの流れが変わる。その事実は大きいなと思っているのです。
 たまたま大会社をやめて、花まるグループにないカードである「家庭教師事業」を起こそうという若者がいるのですが、彼はこう言いました。いまの大会社でも、意義ある業務で不満があるのではないが、たまたま週末の副業として家庭教師をやってみたところ、一人の教え子がいることがこんなに幸せなのかと感じて、「教え子一人を持つ感動」を企業人たちに感じてもらえる家庭教師事業は成立するのではないかというのが、彼のアイデアなのです。そして付け加えて言ったのが、「何かを教える」以上に、「保護者と子どもの間に入って、仲を取り持つ存在としての家庭教師」に存在意義が生まれている時代なのでは、ということ。私の夫婦仲裁と同じ構造。これは時代を打っているなと感じますし、世界の平和にもつながる「おせっかい構想」ではないかと感じています。
 ほかにも山ほどやりたいことだらけですが、素敵な若者が一人またひとりと集まってくるこの流れを大切に、一日一日を大切にして頑張っていこうと思います。

花まる学習会代表 高濱正伸

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