先日、力も感性も信頼できる教育現場の人物と話していたら、「小3が一番おもしろい」という意見で一致しました。
昨年から成年年齢が18歳になりましたが、未成年の時代は、どの年代もかわいい。花まる学習会の創設以前に高校生や大学受験浪人生を教えていた時代も、それはそれで毎日充実していました。自分と向かい合うことができる青春期ならではの真剣さと、「さあ飛び立つぞ」とでも表現すべき、若葉煌めく美しさに満ちていてまぶしかったです。スクールFCの授業に大きな時間を割いていた頃の中学生は中学生で、いかにも不安定で少し悪くなったり人生の悩みが深くなってきたりしていて助けたくなる時期。兄貴分として頼られると何でもしてあげるよという気持ちにさせられました。
花まる学習会の対象は年中から小6ですが、高学年は、「あ、羽が生えてきた(羽化してきた)」という思春期の入り口。目配りや表情がどんどん大人っぽくなっていく時期です。対して年中から小1・2という段階も、もちろん毎年大きく成長しますが、イモムシ(幼虫)として食べる量が増え太り行動範囲も広がる成長の感じ。小3がおもしろいのは、最初の変態(サナギ化)のときだからでしょう。「え! こんなに変わったのか!」と感じる頃なのです。
昨年も今年もそうでした。私の教室では、全体を見て回りはしますが、私の授業担当は主として小1と小3(高学年の「Sなぞぺー」の解説も)。一年ぶりに見る新3年生には驚くばかりです。内気で内向的に見えていた子が、友達関係も広がり大いにおしゃべりするようになっている。少し自己中心性も見られた子の発言に、まわりへの配慮が感じられる。小1まではいわゆる場面緘黙の状態で、ほぼ一言も発しなかった子が、嘘のようにしっかり発言できるようになっている。クラスのムードメーカーの子の、先生のユーモアや教え方のうまさなどに対する評価の語彙や判断力が増して、授業全体が盛り上がる上手な「合いの手」を入れてくれるようになる……。そんなこんなが一度に起こり、個々人にも刮目させられるし、全体としての授業がポッカポカに楽しく温かいものになるのです。それは、スポーツや音楽のプロを目指すかどうか、中学受験をするかどうかなど、それぞれが最初の分岐点での選択をする直前の祝祭のようでもあります。
昨年の年末年始の3年生クラスでの出来事です。
作文コンテストで、ある女の子が田舎に住む曾祖母のことを書きました。それはひいおばあちゃんの100歳のお誕生日会で感じたことでした。会ったらギューっと抱きついて会えなかった間のことを話すこと、大きな口で笑いながら聞いてくれること、作っている野菜がおいしいこと、よく手紙を書いてくれること、少し食べられなくなったと聞いてとても不安になったこと、温かくて安心するシワシワの手が大好きであること……。
副教室長の上武が感動し、迎えに来られたお母さまに書きたての作品を読んでいただき「おばあさまにも読ませてあげてください」と語ったそうです。そして、感じるところがあったのでしょう、異例ですが、作文コンテストの結果が出る前に毎月の「おたより作文」に載せたのです。お母さまは、すぐに作品の掲載されたおたよりを持って帰郷し読んでもらったそうです。するとひいおばあさまは涙を流して、来る人来る人に「Mちゃんが書いてくれたんだよ」と見せていたそうです。そして何度も読み返しては「ばあばは、幸せだなあ。嬉しいなあ」とおっしゃっていたそうです。そして年明けにお亡くなりになったのでした。これは、お母さまからのお手紙で知ったことです。
そしてその作品が、2000人を超す参加者のなかで、最優秀賞に選ばれました。お手紙で感動していたし、私はこの学年の選出にはかかわっていないので、驚きました。
さてお伝えしたいのはここからです。
1月最終の授業日。翌月から受験のためにスクールFCに移動する子もいるので、5年近く一緒に学んできた仲間が揃うのは最後の日です。上武が「なんとかみんなの前で表彰してあげたい」と言って、少し無理して表彰状と記念品を早めに手に入れました。そして私が発表しました。「みんなの仲間のMちゃんが、なんと、作文コンテストで、最優秀賞を取りました!」と。それを聞いた瞬間の、みんなの目の輝き、「やったー!」と大声をあげての、うねりのような盛り上がりは忘れられません。少しくらい嫉妬やひがみが入ってもおかしくないだろうに、本当に20数名のみんながみんなワールドカップで日本が勝利したかのような、笑顔とジャンプ。我が事として「俺たち・私たちのMちゃんが優勝したぞー」という気持ちで一体となって喜んでくれたのです。それからMちゃんのまわりに集まり、「おめでとう!」のシャワー。肩を抱く子、話しかける子、飛び上がり続ける子……。男女の壁など一切なく歓喜し共感する姿は、本当に美しく「これが3年生だよなー」とも思いました。
私自身も、講演でよく語っているように、場面緘黙を克服したのが3年生のとき。また3・4年の二年間はクラス替えなしだったのですが、仲良し男子4人組でいつも一緒に遊んだり野山を駆け回ったり歌ったりした時間の安心感と楽しさは忘れられませんし、男女一緒にグループでスタンドバイミーのような冒険の旅に出た日のことも一生の思い出です。5年生以降にひどいイジメに巻き込まれたことも、つらかったですが、いま思えば学年相当の通過儀礼であり、「羽化」の時期、内省の時期だったのだと思います。そして、ひるがえって3・4年生時代は独特の素晴らしい時代なのだなと感じます。
いま、5歳とか小1だとかのお子さまをお持ちの方は、日々心配があふれているかもしれません。「うちの子だけ〇〇ができない」というような悩みもあるでしょう。しかし、必ず成長するし、小3なのか小6なのか中2なのか、大きな変化の時期がこれから何度か必ずおとずれます。一番肝心かなめなのが、子どもの自己肯定感であり、そのための最大関数が「母親の安心」であるというのが私の考えです。このような事例を聞くことも安心感につながるでしょうから、ぜひ講演会にも足をお運びください。そして何より教室長はそのためにこそ存在します。いつでも何度でもご相談ください。かわいいかわいい子どもたちの変化を、楽しんでいきましょう。
花まる学習会代表 高濱正伸
🌸著者|高濱正伸
花まる学習会代表、NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長、算数オリンピック委員会作問委員、日本棋院理事。1959年熊本県生まれ。東京大学卒、同大学院修了。1993年、「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、「花まる学習会」を設立。「親だからできること」など大好評の講演会は全国で年間約130開催しており、これまでにのべ20万人以上が参加している。『伸び続ける子が育つお母さんの習慣』『算数脳パズルなぞぺ~』シリーズ、『メシが食える大人になる!よのなかルールブック』など、著書多数。