【高濱コラム】『揺れる父親』 2022年7月

【高濱コラム】『揺れる父親』 2022年7月

 「パパゲーノ」という言葉があります。もちろん、モーツァルト『魔笛』の登場人物、鳥刺しパパゲーノにちなむのですが、最近では、その舞台でのパパゲーノのあり方にちなんで、「死にたい気持ちを抱えながら、理由や考えがあって死ぬ以外の選択をしている人」を意味するそうです。そして、この8月20日夜に、NHKテレビで『ももさんと7人のパパゲーノ』というドラマが放映されるのですが、その主題歌から挿入歌にいたるすべての曲作りを担う音楽担当として、我がバンドKARINBAのBUN(田中文久)が抜擢されました。
 ちょうど、少数の観客を入れたライブを6月に開催したのですが、そのときに判明して、バンドメンバー全員で大盛り上がりとなりました。BUNちゃんは、私やRIN(井岡由実)のような教育や、KA(平須賀信洋)の建築のような、音楽とは別の主フィールドを持つのではなく、作曲家になりたくて芸大に入り、卒業後もただひたすらに作曲の道を歩み続けていることをわかっていたので、メンバーみんなが自分のことのように「良かったね!」と喜びました。花まるのなかでは、Think!Think!の音楽担当といえば、子どもたちもわかるでしょうから、ぜひご家族で番組を観て、曲を聴いてあげてください。
 その番組の曲には、ハーモニカのron(佐藤龍英)も参加することも決まり、バンド内はいつになく沸き立った空気でした。そして、無事ライブも終わり片付けをしていたら、KAの携帯にメールの着信。それは、世界大会まである、とある建築のコンテストの国内大会で全国一位になったという知らせでした。ライブの拍手とともに、突風のような運気がメンバーに押し寄せた一晩となりました。

 さて、リアルと言えば、講演会もかなり大人数での開催があちこちで始まりました。そのなかで、遠方で行った大規模な会場での講演は、マスク越しにもみなさんの笑いや涙が伝わってきて、なんて良い交流なんだろうと、あらためてリアル開催の素晴らしさを手応えとして感じました。特に良かったのは、3年ぶりの開催ということもあるのか、感想文にお一人お一人の心がすごくこもっていたことです。一緒に読んだスタッフが、「お手紙のようですね」と言うほどで、いただいた私こそ、揺り動かされ泣いたり笑ったりしてしまいました。
 一番多かったのは「夫にも、なんとしても聞いてもらいたかった」というものでしたが、各テーマについての、素敵な報告もあふれていました。たとえば、兄弟姉妹全員に5分でもよいから、くっついてお話をしようという私からの提案については、こうありました。
「小3の長女とぶつかることが多く、難しいな…と感じることが多々あるのですが、下校してきた娘に、ギューしようかって聞いてみると、少し照れながらもニコニコしてきてくれて、学校の話をゲラゲラ笑いながら聞かせてくれました。」(小3女子、小1女子、年少男子のお母さん)
「まずは、一人ずつ時間を取り、くっつきながら目を見てゆっくり会話をしました。そうすると、子どもたちは『今日どうしたの?』と言いつつも、抱きしめるととても嬉しそうで、大切な時間だなと思いました。」(小5男子、小3女子、年長女子のお母さん)
「5年生の娘に、『一日5分ギュッとするか2人でお出かけする?』と聞くとギュッとしてほしいと答え、娘と最近はそういうスキンシップを取らなくなってきたけれど、まだ甘えたいのだなぁという気づきもありました。」(小5女子、年中男子のお母さん)
「宿題中に発狂していた次男に、イライラをグッと堪えてギューっと抱きしめることも実践。彼のイライラは治まって宿題にも取り組めました。効果テキメン。笑」(小4男子、小2男子、年少男子のお母さん)
どうでしょう。読んでいる方も心温まりますし、このまま保護者の参考になる事例集ですよね。
 夫婦でお互いを自由研究しようというテーマでは、以下のようなものがありました。
「前回の講演後、夫に、『高濱先生の講演を聴いてみて!YouTubeで見られるって先生が言ってたから』と伝えたら、夜中にコソコソ見ているようでした。その動画の中に自由研究の話があったのかなかったのかわかりませんが、最近の結婚記念日や誕生日にはケーキや子どもの写真入りのハンカチなど、以前からは考えられないようなプレゼントを準備してくれるようになり、私はニコニコに過ごして、ちょっとお小遣いも奮発して渡しちゃったりしています。」(小2男子、年中女子のお母さん)
「久しぶりに高濱先生の講演を聴いた夫にも響くものがたくさんあったようです。早速帰り道に、『〇〇のライブ楽しみだね!』なんて会話をしながら帰りました!笑」(小4男子、小2男子、年少男子のお母さん)
こういう報告は、心がポカポカしますよね。

 そして、今回の感想で一番考えさせられたのは、あるお父さん(小4男子、小2男子、年少女子)の感想です。A4二枚分、ビッシリと書き込まれた文章は、知的に非常に高いことが伝わるものでした。私の大ファンだったこと、生で聴けて感動したこと、仕事で多くの社会的ひきこもりのご家族と接してきたことなどが書いてありました。どの部分も私自身が参考になるもので、たとえば私の「脳の階層論」については、「母親のスキンシップによる愛情表現や、父親の肉体的な迫力を伴う一喝は、どちらも原始的であるからこそ生き物としての本質であり、だからこそ今も昔も変わらない育児の大切な基本要素なのだろうと思いました」とありました。
 一番感銘を受けたのは以下の部分です。「夫側も実はケアを求めている部分があるのではないかとも思いました。10年前に始まったイクメンブームにより、世の父親たちは非常に厳しい環境に置かれた気がします。かつては仕事や夜の飲み会に終始していても、男女格差の影響でそれなりに家庭で威張っていられましたが、今はそのような父親に誰も賛同しません。妻だけではなく世間からも白い目で見られるので、いち早く帰宅して育児・家事を担うよう努めます。一方でそのような現代風の父親像に対するロールモデルがない我々令和の父親は、差し当たり育児・家事の面で機能するために、いったん自分の母親を参考としながらそれらに従事します。家事も積極的にこなしますし、子どもの話にも耳を傾け、まさに良き理解者として接するようになります。すると今度は『最近の父親はお母さん化している』『男らしさが足りない』と指摘を受け、再び方向転換を余儀なくされます。おそらく、世の父親たちも自分の立ち位置に混乱し、対応に迷っている部分があるのではないかと思いました。(後略)」
 一生懸命話した講演に、保護者のみなさまも心からの声をこうやってくださる。意味ある対話だし、本当にありがたいなと感じました。そして、文化や因習が揺さぶられひっくり返された現代での、「揺れ動く父親像」については、ずっと考え発信し続けたいと思いました。

 さあ、夏休み。野外での活動などは、ほとんど縛りもなくなりつつあります。水難などの危険にはアンテナを張りつつ、子どもたちに多くの体験の機会がありますように。そして、パパが大活躍できる夏でもありますように。

花まる学習会代表 高濱正伸


🌸著者|高濱正伸

高濱 正伸 花まる学習会代表、NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長、算数オリンピック委員会作問委員、日本棋院理事。1959年熊本県生まれ。東京大学卒、同大学院修了。1993年、「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、「花まる学習会」を設立。「親だからできること」など大好評の講演会は全国で年間約130開催しており、これまでにのべ20万人以上が参加している。『伸び続ける子が育つお母さんの習慣』『算数脳パズルなぞぺ~』シリーズ、『メシが食える大人になる!よのなかルールブック』など、著書多数。

高濱コラムカテゴリの最新記事