教育哲学

【高濱コラム】『逆境のデザイン』2020年2月

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香川真司選手×花まる学習会で、スポーツ教室HANASPO(代表:新山智也)を正式に始めることになりました。
香川選手とは、雑誌の企画で対談したことをきっかけに意気投合。
多忙な中で、香川選手自身が、さいたま市の幼稚園の私の授業を見に来てくれたり(ご近所の方やお母さんたちの撮影軍団で、ちょっとした祭りになりましたが)、私がドイツやスペインの彼の自宅を訪ねブレストを重ねたりして、実現しました。
そこに至るまでの経緯をお伝えします。

社会的引きこもりの増大に教育現場で気づき、花まる学習会を立ち上げて27年。思考力育成については、なぞペーやThink!Think!等で一定の認知を得られたし、野外体験も県警から川遊びの安全管理の相談をされることもあるほど、世間から認められるようになりました。
その中でいま一番の教育課題は、「強い心を育てる」ことだなと感じてきました。
その根拠は、たとえば社会人の世界でのメンタル、メンタルの連呼です。
何でもかんでも「〇〇ハラ」だと血祭にあげて溜飲を下げるような風潮も同じです。
大勢の人間が社会を構成すれば、嫌な気持ちにさせられることなど始終あるに決まっているのだから、大切なのは嘆くことではなく、その残念な相手を睨みつけ跳ねのけるくらいの毅然たる態度と、強い心を持つことです。

強い心を育てあぐねている原因は、もちろん一概には言えませんが、大枠の構造はこうだと思っています。
ご近所の人が自由に家の中に入ってくるような地域の絆が消滅した現代では、子育てする親の真横にお隣のおばちゃんがいるということがない。
ねぎらってくれたり、話を聞いてくれたり、アドバイスしてくれたりする存在がいない。
しかし、共働きであっても子育ての中心は母になることが多く、結果、孤独な母になりがちである。

孤独な母性が支配する家庭では、ちゃんと・優しく・まじめには育つけれど、強く・たくましく育てることが難しくなる。
なぜなら、そのためには、喧嘩・いじめ・孤立などの、逆境経験とその乗り越え経験が必要なのだが、母はわが子を守る存在なので、そのようなことは無い方が良いという基本スタンスを取りがち。
少々の諍いがあると学校にクレームを言い、「トラブルよ降りかかるな」という姿勢で子育てをしてしまう。
悪気など全くない。
わが子を守りたい一心で。
しかしそのような転ばぬ先の杖ばかり出し続ける除菌主義は、将来を考えたときに、ルソーの言葉を借りれば、自立を阻む「最も残酷な仕打ち」なのです。

お母さんに焦点を当てれば、必要なことは自分を「つながりの中に置く」ことです。
「うんうん」「分かるー」という、たくさんの共感とねぎらいとアドバイスの中に自分を置くことです。
逆境下にあるわが子の状態に口出ししたい気持ちを、受け止め分かちあってくれるつながり。
これについては、年明けに革命を見ました。HUC(母親アップデートコミュニティ)を検索してみてください。
ネットでつながりながら「お互いを誰も否定しない」という神ルールのもと、母という母が常識にとらわれず自らの関心を見定め、オリジナルな道を選び邁進し、一個人として安心し輝いているのでした。
この運動は、日本中に広がると確信しています。

さて、主役である子どもに焦点を当てれば、何といっても大事なのが経験総量です。
子どもは子どもなりに必死だとしても、つぶされない程度の「良い加減の逆境」と「乗り越え&成功体験」の総量。
この繰り返し以外に、子どもの心を強くする道は皆無だと言っても過言ではないでしょう。

花まるでは、たとえばサマースクールで、もともとの友だちは同じ班にしません。
1人対複数人による一方的で排他的ないじめを防ぐ意味もありますが、全員が平等に不安=同じ程度の逆境からスタートする方が明らかに助け合いが生まれやすいからです。
何回ものもめ事をはさみつつ、一人っきり感から家族的一体感へ気持ちが変化する経験は、たくましい心の育成に寄与します。

高学年からの山村留学の奨励も、同じ意味です。
世話を焼きたい親心から離れて、信頼できる外部の大人の庇護のもと、とにもかくにも自力で生活することは、例外なく強い人格の形成につながっています。
テントの設営から食事の準備、食後の片付け、薪での風呂沸かしまで行うサバイバルキャンプも、同じ目的を含んでいます。
逆境の価値に対し手は打ってきたし一定の結果は出し続けてきたのです。

そして、ある時からスポーツによる教育の可能性に心を奪われました。
現実に強靭なハートを持った社会人に、スポーツ、特にチームスポーツの経験者が多いことに気づいたことがきっかけですが、考えれば考えるほど、魅力的なのです。
第一に、人間がある経験で成長する第一歩は、そのことを「好きだ」ということですが、スポーツは、学習ドリルや楽器の反復練習に比べてかなりの高い確率で、子ども自身がそのスポーツをとにかく大好きでやっている。
それは必然的に没頭・夢中という最重要な状態になりやすい。
知力の面でも、例えばサッカーでパスの道筋の予想は「見える力」の代表である補助線を、俯瞰した位置から描き続けることであるし、最後まで苦しくても頑張り抜くことは「詰める力・やりきる力」を伸ばす経験となる。
上手になりたいと心から願うことや、挫折したときに乗り越えるために必死で考え抜くことは、アイデアや突破口を発見する力を生み出す。
つまり、スポーツこそ、頭もよくなるし心も強くなるし生きる力を育めるのではないか。

逆境のリスクは、もちろんあります。
一生のトラウマになるような落ち込みや敗北感が心に焼き付けられることです。しかし、指導者側が最初から逆境の価値こそに注目し、「逆境のデザイン」「逆境のマネジメント力」を持って臨めば、逆にそれを乗り越えさせることで、大きな恵みをもたらすと考えます。
耐え抜く精神力を育むだけでなく、内省の好機となって哲学を育てる機会にもなるでしょう。
そして何とか突破しようと考え抜くことで工夫力も育てます。

これまでのスポーツの部活やお稽古事では、昭和以来のオラオラ文化が幅を利かせるような独特の因習がまかり通っていました。
近年、いくつかの競技団体で各種の事件にもなりましたね。
子どもの世界でも、実際に雪国スクールの場に来ていたあるスポーツ教室団体のスタッフは、幼児に「オイコラ17番(名前すら呼ばない!)何やってんだお前、やる気あんのか!」と怒鳴っていました。
これなどは、「幼児期には幼児期の指導法が必要」という花まるメソッド的な視点に欠けているなと感じました。
そういう点も含めて、スポーツ教育の新たな視点を持って、HANASPOはスタートします。
まずはサッカーからですが、競技の幅は広げていきたいと考えています。

逆境を成長機会ととらえ、上手にマネジメントし、強くたくましい心を持った人に育てましょう。

花まる学習会代表 高濱正伸


著者|高濱 正伸

高濱 正伸 花まる学習会代表・NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長。1993年、「この国は自立できない大人を量産している」という問題意識から、「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を主軸にすえた学習塾「花まる学習会」を設立。1995年には、小学校4年生から中学3年生を対象とした進学塾「スクールFC」を設立。チラシなし、口コミだけで、母親たちが場所探しから会員集めまでしてくれる形で広がり、当初20名だった会員数は、23年目で20000人を超す。また、同会が主催する野外体験企画であるサマースクールや雪国スクールは大変好評で、延べ50000人を引率した実績がある。 各地で精力的に行っている、保護者などを対象にした講演会の参加者は年間30000人を超え、毎回キャンセル待ちが出るほど盛況。なかには“追っかけママ”もいるほどの人気ぶり。

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