【高濱コラム】『どんな子にも』 2022年2月

【高濱コラム】『どんな子にも』 2022年2月

 『子育てハッピーアドバイス』シリーズで有名な、精神科医の明橋大二さんと、花まる子育てカレッジの企画で対談しました。専門性に裏付けられているし、優しさに満ちているし、何よりも根本に共通するものがあるような気がしていて、長年「本の中の先生であり友」だった方と、Zoomとはいえお顔を見てお話しするのは、嬉しい時間でした。聞けば、生まれた年も同じ、大学にはほとんど通わずも同じ。一番の感動は、パンクロックはじめロックにのめり込んだ一時代を過ごしたのも同じだったことです。音楽が人にもたらす力についても再確認できました。

 さてテーマは、大きな音や鋭利なもの、他人の目等々への、「敏感過ぎる子」としてかなり話題に上るようになってきたHSC(Highly Sensitive Child)についてです。その内容については、最初の30分だけでも、ぜひ動画をご覧になることをお勧めします。4つの特徴、3つのタイプ、6つの方針など、5人に1人いると言われるHSCの親御さんには、救いと学びになることばかりでした。また、そうでない子の親にとっても「まず土台である自己肯定感にこそ注力する」ということなど、確実に参考になる基本に満ちていました。個人的にも、「ああ、十年前のあの癇癪持ちの子は、間違いなくタイプ3の子だったな」など、当てはまる子どもたちの思い出が、次々とよみがえっていました。
 実はその前夜、懇意にしているある方から連絡があって、育てにくいと感じている息子くんの子育て相談を受けたのですが、その特徴が明らかにHSCに当てはまるものでした。話を聞くと、実はお父さん自身もそういう過敏な自分を克服して現在の要職があり、いまでもここぞという大事なレポートをまとめるときには、ノイズの無い個室でやるように工夫しているということでした。まったくの偶然なのですが、神様が私に、「HSCについて学びを深めよ」とでも言っているようでした。
 さらに、一週間後のこと。あるお母さんからメッセージが届きました。一人っ子の男の子のことで悩み、2020年の夏に、「海賊ラジオ」の番組、「ちょっと聞いてよ!高濱先生」に投稿した。その回答を聞いて中学受験をしようと決め、子の特徴を考えて、オンライン授業を実施している西郡学習道場を選んだのが5年生11月。最初こそいろいろあったが、やがて良き居場所になった。そして今年、S中の合格を勝ち取ったということでした。トップ校の一つで、たった一年にしてこの合格は、受験業界の常識としては奇跡に近い結果です。すぐに当時の投稿メールを確認したら、典型的なHSC(!)で、集団になじめないという悩みの相談だったのでした。
 この件が嬉しかったのは、「高濱に相談したくても、できない」という声を受けて、ラジオアプリの提案を引き受け、直接相談できる場をつくってきたことや、「困りごとを抱えた子こそを助けたい」という西郡の情熱で道場を独立させてつくったこと、さらにコロナ禍初期のオンライン化のときに、まさにHSC系の子たちが、むしろすごく集中できるプラス面があるとわかり、西郡の決断でその後100パーセントオンライン授業に振り切っていたこと等々、現場に根差した改革や対策が一つにつながって、一人の男の子の健やかな成長に貢献できたということです。忘れられないエピソードになりそうです。ちなみに、担当講師の日報には、合格の喜びとともに、「花まるグループに、受け皿が広くあることが、何と幸せなことか」ということと、「わが子の頑張りを認められる保護者であったこと、温かい家庭であると感じられたことが成功のポイントである」ということが書かれてありました。

 まったくの別件で、今年度はこういうこともありました。花まる学習会というと、テレビはじめ取材では、「イェーイ!」と大声を揃える低学年部門ばかりが注目されて、動きも少なく静かに黙々と課題を進める高学年の授業は、取材等では扱ってもらえないし、あまり評価されていませんでした。一見地味なのは、黙々と各人が集中するという、高学年だからこその学びのスタイルにしているだけですし、花漢・サボテン・作文・Sなぞ・GoodJob!・言葉調べ・ノート法で学ぶ復習の仕方など、本質的なことだけを凝縮しているし、ちゃんとやった子たちは間違いなく中学・高校で伸びているのだが、という想いがありました。そして一方で、我々が目を離したとたんに、恋やドラマ、アイドル、音楽など、思春期の様々な誘惑に負けて成績が落ちてしまう中学生の親御さんから相談されることも、しばしばありました。かと言って、部活に熱中している子や家からの距離が遠い子は、スクールFCに遅刻せずに通うことは難しい。どうする?

 そこで、昨年4月から、小学6年生まで花まるにいた子たちのための「中学生の自習室」を、実験的に私の教室につくってみました。基本は、完全な自習。定期テストに向けた対策の学習がメインで、私たちは教えません。かかわりとしては、定期テスト前の学習計画の立て方を、スクールFCの知見を持ってきて教えてあげることと、中学生だからすぐおしゃべりなどして楽しくサボってしまうことに、「外の師匠として睨みを利かせる」ことの二つです。
 5人申し込んでくれ、実際に休まず通い続けてくれた4人が、一学年300人以上いる学校に通っているのですが、たとえば2学期の中間テストでは、学年で2番、4番、9番、35番。他のテストも概ねそのくらいの順位だったので、さいたま市で言うと、浦和・大宮・一女などの公立最上位校を、十分に狙える位置をキープし続けているのです。もう少し観察したあと、各地でお借りしている教室の条件さえ整えば、他の場所でも実現したいなと考えています。

 どんな子の、どの状況や困りごとにも居場所と解決策がある。言うのは簡単ですが、実現するのは甘くないし、多くの学びと努力と創意工夫が必要です。しかし、自由自在に形を構築できる在野の教育だからこそ、やり遂げられるとも思っています。今回のHSCなどが典型ですが、我々自身も常に学び変化しながら、どのような困りごとにも細やかな対応をできる教育グループを目指して、熱き若者たちと一つずつ創り上げていきたいと思います。

花まる学習会代表 高濱正伸


🌸著者|高濱正伸

高濱 正伸 花まる学習会代表、NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長、算数オリンピック委員会作問委員、日本棋院理事。1959年熊本県生まれ。東京大学卒、同大学院修了。1993年、「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、「花まる学習会」を設立。「親だからできること」など大好評の講演会は全国で年間約130開催しており、これまでにのべ20万人以上が参加している。『伸び続ける子が育つお母さんの習慣』『算数脳パズルなぞぺ~』シリーズ、『メシが食える大人になる!よのなかルールブック』など、著書多数。

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