今回はかわいいミニもて経験のお話。
ぐずぐずとなかなか教室内に入りたがらない年中のKくん。折り紙を触ったり、ハサミを出したりと、授業が始まる前の時間を私の横で過ごしていました。もちろん教室の中には入ってほしいのですが、「入りなさい」と言って入るものでもないので、彼の気持ちの決心がつくタイミングを見計らっていたわけです。すると「歯が抜けたの」と言いながら笑顔でやってきた同じクラスのMちゃん。私の横で平静を装い座っているKくんのことを、じっと見つめて立ち止まりました。「あれMちゃん、Kくんのこと待ってくれてるんだ?」という何気ない私の一言に、「うん」と言ってくれたMちゃん。するとどうしたことでしょう。何度か講師に「入ろうよ」と言われても「ヤダ」とつれない返事だったKくんが、あれよあれよと折り紙をしまい、ハサミを片付け、「お待たせ!」とばかりに一緒に中へ。Kくんの恋心に火をつけて、まんまと教室内に導いたのはMちゃんです。私ではなく。
そして、年長のSくん。ママが大好きで甘えん坊、心配性の一人っ子。キャーっと騒ぐ声の先には、女の子が叫んでいます。「虫!虫!」「助けて!」反射的にSくんは駆け出しました!あさっての方向に!そう、ティッシュを取りに走ったわけです。虫といえばダンゴムシかアリしか触れない彼なのに、彼女のためにはとにもかくにも我を忘れてダッシュしたのです。助けてくれた彼への女の子の視線は、ステキ!という気持ちにあふれていました。それを全身で感じ取ったSくんでした。
ヒーローになりたい。男の子ならいつだって「ママのヒーローでいたい」。お母さんの視線をいつも感じて生きているものです。でも、これほどまでに、「かっこいい自分でいたい」と男の子たちの心を奮い立たせる、女の子の存在って、すごいなあ、と自然に感じ入りました。
こうやって子どもたちは、子どもたち同士のかかわりの中で、「ミニもて経験」をたくさんしながら、勝手に自信をつけていきます。それこそがまさに、人生の成功体験の積み重ね。そんなすてきなミニドラマが待ち受けているサマースクールももうすぐ。子どもたちだけの生活の中で、ほんの少しずつ、補助輪のないほうへないほうへ、頑張っていくのです。それを見守り応援するのが花まるのサマースクール。
子どもたちを見ていても、すばらしい教育者を見ても思うのは「人は愛情でできている」ということ。自分が愛されてきたことによって、感謝や愛の気持ちは生まれてきます。
目の前の子にどれだけ「愛の目」をかけられるかどうか。育児や保育・教育の現場では、子どもとかかわる大人自身が何よりも満たされているかどうかが、問われるのでしょう。
ちなみに先のKくん。外授業からの帰り道も、男子とは手をつながない、と先ほどのMちゃんを探す始末。Kくんと手をつなぎたかったはずの、肩を落とす友人男子に、私がそっと手を差し伸べたのは言うまでもありません(笑)。
(今回は私の数年前の年中クラス、観察日記からお届けしました。)
井岡 由実(Rin)
国内外での創作・音楽活動や展示を続けながら、 「芸術を通した感性の育成」をテーマに「ARTのとびら」を主宰。教育×ARTの交わるところを世の中に発信し続けている。著書に『こころと頭を同時に伸ばすAI時代の子育て』 (実務教育出版)ほか。
「Atelier for KIDs」は、 小さなアーティストたちのための創作ワークショップです。
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