【Rinコラム】『小さい子どもと話すコツ』2020年11月

【Rinコラム】『小さい子どもと話すコツ』2020年11月

 子どもたちというのはとにかくよく走り回ります。大人なら歩いて移動するところを、ちょこまかと走って移動し、店内でも廊下でも構わずに(笑)、とにかく動き回り、走り回る。なぜ子どもたちはあんなに走り回るのでしょう?
 ご存知でしょうか。哺乳類は体の大きさによって心臓の速さがほぼ決まっています。つまり、体の大きさが大きければ大きいほど、心臓はゆっくり、小さければ小さいほど、速く動いています。そして、それぞれの動物の動きは、こうした心臓のスピードに合わせたものになっています。

 そして、血液の循環というものは、心臓の拍動によってのみ行われているのではなく、手足の筋肉が動くことで、そのポンプ作用によっても促されています。「エコノミークラス症候群」は、そのことと深い関係がありますよね。

 人間の場合も、大人と子どもでは体の大きさが異なり、心臓の拍動の速さも違います。

 そうなのです。子どもたちがちょこまかと動き回り、走り回るその裏では、身体全体に血液を送り出すにはまだ小さすぎるその心臓を、たくさん動かす手足の動きが助けていたわけです。手足のリズムは、子どもたちの心臓の鼓動そのもの。子どもたちの落ち着きのない(と大人から見える)様子は、大切な意味があるものだったのです。

 ここからは、幼児教育の現場に出る前に、新人教室長に最初に座学で教える幼児教育の基本なのですが、幼児の前に立ったら、呼吸のリズムを彼らと同じにすることがコツです。大人のテンポでは、子どもたちにとっては遅すぎて、苦痛です。だから、「待って」は通用しませんし(笑)、「ゆっくりと、丁寧に」話せば話すほど、理解できなくなっていく。声を出すこと、動くこと、すべてが、大人の想像以上に速いほうが、彼らにとっては実は快適で、自然なのです。

 花まる学習会の子どもたちが、教室で生き生きと躍動し、まるで遊んでいるかのように学ぶ姿を見て驚かれることがありますが、実はこういったたくさんの幼児の特性を理解し、そのうえで教材開発や授業展開を行っているからなのです。

 このことを、子どもとかかわる大人が知っているだけで、子どもたちがやたらめったら走り回るのを見ても、未熟な自らの心臓や臓器の成長をサポートしているのだなあ、子どもたちの動きは、彼らの心臓の鼓動そのものなのだなあ、と少し違った目で見えてきますし、「うちの子は落ち着きがない…」と必要以上に思う必要はないように感じますよね。

 ご家庭では、子どもたちに話しかけるとき、できるだけ近づいて、同じ方向を向いて、いつもより少し早口のささやき声で話しかけてみてください。面と向かって、ゆっくり丁寧に話すよりもずっと、子どもたちは理解しやすいはずです。
 

井岡 由実(Rin)


著者|井岡由実(RIN)

井岡由実 国内外での創作・音楽活動や展示を続けながら、 「芸術を通した感性の育成」をテーマに「ARTのとびら」を主宰。教育×ARTの交わるところを世の中に発信し続けている。著書に『こころと頭を同時に伸ばすAI時代の子育て』 (実務教育出版)ほか。

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