先月のコラムで、「その子らしさ」の輪郭を見つけて、長所を伸ばすことについてお話ししました。今回は、どうやって子どもたちの「好き」を見つけて、それを応援してあげればいいのかについて考えてみようと思います。
まず、よく観察してみてください。何に対してその子が悔しいと思うのか。どんなときに頑張るのか。どんなときに集中するのか。それらは、幼少期から確実に一人ひとりちがいます。
周りの音がまったく聞こえなくなるくらいに、そのときしていることに夢中になっている状態のことを「フロー状態」といいますが(スポーツの世界では「ゾーンに入る」といったりもします)、こういうとき、人は極度の集中状態に入り、パフォーマンスが上がります。
たとえば私は、子どもの頃から本を読むのが大好きで、読み始めると話しかけられても返事はできませんでした。なぜなら、聞こえなかったからです(笑)。
家庭では、そういう瞬間を見たときに、何に集中しているのだろう?と思って観察してあげるとよいと思います。返事をしないなんて!と表面的にとらえて叱るのではなく、何に没頭しているのだろう?と。その子の「好き」は何だろう?と。
「好き」や「楽しい」という気持ちを持ったものは、その人の人生をしあわせや成功に導く羅針盤です。好きだから、楽しいから、子どもたちは自分からやろうとするのです。
好きだからあきらめないし、続けます。その結果、自己肯定感が上がって、自信がつくと、人はやらなければいけない他のこともきちんとやり遂げることができます。失敗しても、もっと良くなるように自分で工夫します。自分なりの答えを探して、壁を乗り越えようとします。
自尊心が高まり、自分を大切にできる子は、他人に対しても共感したり、協働したりする力を発揮していきます。そして、そういう人には、応援してくれる人が必ずあらわれます。
花まる学習会では、特に幼児期の子どもたちにとって、学ぶことに対して「楽しい」「好き」という気持ちを持てることを最優先にして指導します。
「人と比べるのではなく、過去の自分よりもできたということが大事だよ」と伝えますし、結果だけを見て一喜一憂するのではなく、頑張ったプロセスを認めていきます。
「考えることって楽しいし、自分で答えを見つける方がおもしろい」と知っていれば、正解だけを早く教えてほしい、というような誤った学習感を持たないですし、自分で学んでいくことに重きを置き、学ぶことは自分を豊かにさせるものだという視点で、人生を選択していくことができるようになるからです。
よく観察する。そして「その子らしさ」や「好き」を見つけてあげる。そのこと以前に、大切だなと感じることがもうひとつあります。
それは、大人である私たち自身が、自分たちの姿を通して「好きなことを持つすばらしさ」を見せていくことです。子どもたちは、私たち大人の背中を見ているものだからです。
あなたが、こころを傾けているものは何ですか?
井岡 由実(Rin)
花まる学習会取締役、「ARTのとびら」主宰。児童精神科医の稲垣孝氏とともに、心を病んだ青年たちへの専門的な対応に専心。花まる学習会年中・年長向け教材開発に携わり、冊子『1年生になる前に』では、幼児期に伸ばしたい能力や感性の教育について論じる。国内外での創作・音楽活動や展示を続けながら、 「芸術を通した感性の育成」をテーマに、教育×ARTの交わるところを世の中に発信し続けている。著書に『こころと頭を同時に伸ばすAI時代の子育て』 (実務教育出版)ほか。