こころと頭を同時に伸ばす 幼児期の子育て 12
花まるでは、「1・1・1」と呼んでいる哲学があります。
「一日につき、ひとりに、ひとつ、発見する」の略です。
子どもたちに対して、 「いつも何かを発見して伝えよう」という気持ちで過ごすことで、そしてそれが当たり前になることで、少しの変化にも気づいて言葉にすることができるようになります。
「髪切ったね」
「この前より大きい声であいさつしたね」
「る、の字がバランスよく書けるようになったね」
…「観察する」ことは、人とのコミュニケーションの土台になるだけでなく、ものごとの本質を見ようとするこころ、どんな状況でも、よい面を同時に見つめようとする視点を持つことにつながります。
人はみんな、才能(タレント)を持って生まれてきます。
それは長所と呼ばれ、また短所は人生における課題なのかもしれません。
オーストラリアの原住民アボリジニは、才能(タレント)が自分の名前になっていたそうです。
たとえば〝星を読む男〟 〝風のにおいをかぐ男〟のように。
そして、お互いのタレントを交換して、グループの中に足りないタレントがないようにしていたそうです。
タレントとは本来そういうもので、自分の才能を知るというのは、自分自身を知るということともいえるのでしょう。
私たち大人はうっかりすると、短所の方ばかりに敏感になり、少しでも悪いところを見つけると直そうとしてしまいます。
ですがこれは、自己肯定感を育むうえではマイナスでしかありません。
子どもというのは、まず最初に長所をたくさん指摘され、それから短所をちょっぴり指摘されると、短所や欠点に対する取り組みがとてもよくなります。
よくないところは直そうとする。
というのは、たくさんよいところを伝えてもらってきた子どもは、自分に自信があるからです。
自信がないと、短所を直すということはなかなかできないのです。
短所と長所はいつも裏返しで、そこには「違い」しかない、という前提を持ってみると、さらに見方は変わってきますね。
その子本来の持つよい面を、見つけて、言葉にしていく。
それが「1・1・1」の哲学です。
きっと花まるの新しい教室で、新しい先生と出会ったときにも、子どもたちは「今日のあなたのひとつ」を発見してもらって帰ってきているはずです。
ぜひおうちでも、 「一日につき、 ひとりに、 ひとつ」よいな、と感じたことを伝えてあげてください。
直してほしいな、 と思っていることは、そのあとから、ほんのちょっぴりだけ。
子育てや教育、つまり子どもたちを育てることは、未来の地球をつくる仕事です。
素材のもつ可能性を見出して、それを活かして表現する芸術もそうです。
見えないものを可視化し、そこに光を当て、そのものが持つ本来の輝きを引き出す。
私はそれがやりたくて、この仕事をしているのだな、といつも思うのです。
今年度も引き続き、教育者の視点と、アーティストのこころで、子どもたちのこころと頭を同時に育てるための花まるメソッドを紹介していきたいと思います。
R i n (井岡由実)
国内外での創作・音楽活動や展示を続けながら、 「芸術を通した感性の育成」をテーマに「ARTのとびら」を主宰。教育×ARTの交わるところを世の中に発信し続けている。著書に『こころと頭を同時に伸ばすAI時代の子育て』 (実務教育出版)ほか。