【高濱コラム】 『「また会いたい人」に~卒業するキミヘ~』2020年3月

【高濱コラム】 『「また会いたい人」に~卒業するキミヘ~』2020年3月

「お元気ですか。僕は毎日楽しく、そしてしっかり勉強に取り組んでいて、学校や花まるなどの習い事にも欠かさず行っています。
たしか花まるだよりの高濱コラムにKくんのことを書いていましたね。
自分の修学旅行の仲間が載っていると、自分も載ってみたいなとうらやましく思います。
(中略)
今まで自分の考えをすべて伝えられなかった自分でも、高濱先生と相談していくうちに安心して何もかも話せるようになっていました。
(中略)
また高濱先生に会えることがとても楽しみです。
ありがとうございました。」

「サマースクールでは、ありがとうございました。
修学旅行のおかげで、リーダーのすごさ、リーダーになりたいという気持ちが大きくなりました。
(中略)
質問に真剣に答えてくれて、あらためて先生は本当にすごい人なんだなと感じました。
本当に最高のサマースクールにしてくれてありがとうございました。
(中略)
しばらくは先生に会えないかもしれません。
でも3年後、高校生リーダーとして絶対戻ってくるので、待っていてください。」

 これは、キミたちの同級生である男女2名の子が、昨年の秋にくれた手紙です。
私は感激しました。
一緒に過ごした夏の時間は十分に価値あるものだったけれど、こうやって書いてくれたことで輝きを増しました。
この仕事を続けてきて良かったなあと思いました。

私は長年、大人になるために知っておいてほしい大事な事を伝えるために、卒業記念講演会を開催してきました(その内容は、『13歳のキミへ(実務教育出版)』や『よのなかルールブック(日本図書センター)』などの本にもなりました)。
しかし、今年は新型コロナウイルスのせいで開催できなかったので、このコラムを書いています。
今年も、この一年で増えた新しいメッセージなどをたくさん伝えたかったのだけれど、3つに絞って書きますね。

1 相手の心を想像しよう 
例えば、夫婦喧嘩をしているお父さんの立場に立ってみよう。
「私は理路整然として正しいことを言っている。解決する提案も示した。何度も説明した。ところが妻は気が済まないようで、あの手この手で反撃してくる。わけがわからないしこっちだって腹が立ってきた…。」

こういうとき、何が足りないのだろう。
それは、「相手の心を想像する、相手の心に焦点を当てる」という一点だ。
奥さんは正しいことが聞きたいのでも、夫に見事な解決策を示してもらいたいのでもない。
ただ、自分の気持ち・心をわかってほしいだけ。
模式的だけれど、こういう「心を見ないから上手くいかない対立構造」が、人間世界にはあふれているんだよね。

わかりやすい例を示そう。
大久保寛治さんという方が書いた『あり方で生きる(エッセンシャル出版)』に書いてあったお話で、概要はこうです。
小2の息子にゴミ捨てのお手伝いをさせたいお母さんがいた。
ところが嫌がる。
それならと「ジャンケンで負けた方が運ぼう」と提案したら、おもしろがってくれた。
ところがジャンケンはママの勝ち。
「それじゃ運んで」と言うと「嫌だ」との返答。
さあ、ここでどういう対応をするかという話です。
「だって約束でしょう」とか「ルールだから守りなさい」と説得しても、人は動かないか、せいぜい不機嫌な顔で渋々やるだけ。
お母さんは考えたあげく「〇〇ちゃんは、お母さんに負けたのが悔しかったんだね」と言った。
するとすぐに「うん」と言ってゴミを運び出した、という話です。

決めた約束なんて頭には入っている。
だけど悔しくて意地を張ってしまう。
よくあることだよね。
でもそこで、気持ちを汲み取ってもらうと、スーッと心の縛りが解ける。
似たような経験がないかな。

人は進化する中で、言語や論理などの力を持ったけれど、芯は心。
相手の心に響かない言葉は残念な結果になるんだよね。
正しさも間違いなく大事だけれど、相手の心に響くことが、もっともっと大事なことだよ。

2 「また会いたい人」を目指そう 
これは、Yahoo!の宮澤弦さんという人が、私との対談で教育について尋ねたときに言った言葉で、真意はこうです。
また会いたい人には2種類ある。それは「おもしろい人」か「温かい人」。
「おもしろい人」というのは、テストができるというような処理能力ではなく、イメージ力にあふれた本当の頭の良さがある人。
「温かい人」は読んで字のごとく、会って話をしたときに、思いやりや優しさを感じて心がポカポカする人。
どうだろう。
シンプルだけれど、一番大切なことを言いきっていて、奥が深いよね。
ためになる言葉はたくさんあるけれど、この一年間で聞いたなかで、私が一番心に残った言葉です。

3 「好き」を大切に 
大人で幸せな人と不幸な人を研究すると、こうだなと思うことがあります。
それは、幸せな人は、自分の興味関心、つまり「好きなこと・やりたいこと」が明確だということです。
さらにそれを仕事につなげられている人は最高に幸せなんだな。

そんなこと当たり前だろうって?
いやいや、30歳や40歳になって転職しようというときに、「自分が何をやりたいかがわからない」という大人もたくさんいるんだよ。
それは、他人の価値観に合わせて、他人の決めた評価軸(偏差値表・大学ランキング・企業ランキング等)で良い成績をあげようとだけしてきた人。
偏差値やランキングが悪いのではなく、「まず、自分の興味関心は何なのか」という芯がないからダメなんだよね。
あとは、自分で「選んだかどうか」も同様に幸福に直結している。
私は、20代すべてを費やして、最も好きなことは「子ども」と「音楽」だと結論を出せた。
教育を仕事として生きていこうと決めてからは猪突猛進走り続けて、それはただもう感動ばかりの日々でした。
授業やサマースクールのたびに絵巻物のような心奪われる場面に出くわすし、冒頭のお手紙のようなものまでもらえるんだもの。
本当に「教育」と決断することができて良かったと思えます。

あなたには、日々の生活で経験したり見聞きしたりするあらゆることの中で、「好きだ!」と感じる気持ちを大事にしてほしいし、自分で選べる人になってほしい。
それだけは、絶対に自分の中にしかないからね。

ここまで花まるやスクールFCに通ってくれてありがとう。

健康・丈夫な体を大切にして、自らの興味関心を大事にして、自ら選んで決めて、人生を満喫して歩いていってください。
大人になったあなたが、「また会いたいな」と思ってもらえる素敵な人になれますように。

卒業おめでとうございます。  

花まる学習会代表 高濱正伸


著者|高濱 正伸

高濱 正伸 花まる学習会代表、NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長、算数オリンピック委員会作問委員、日本棋院理事。1959年熊本県生まれ。東京大学卒、同大学院修了。1993年、「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、「花まる学習会」を設立。「親だからできること」など大好評の講演会は全国で年間約130開催しており、これまでにのべ20万人以上が参加している。『伸び続ける子が育つお母さんの習慣』『算数脳パズルなぞぺ~』シリーズ、『メシが食える大人になる!よのなかルールブック』など、著書多数。

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