教育哲学

【高濱コラム】『勉学が一番信じられる』2020年11月

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 今年3月に『ステキな大人の秘密』(エッセンシャル出版社)という本を出しました。日本版ダボス会議と呼ばれるG1サミットで知り合った「気の合う人」に、たまたま農学部出身が多かったので、「俺たち農学部」という書名で本でも出すかと、冗談で語っていたことが現実になったものです。私が、ステキな大人としてみんなに知ってほしいと言い切れる人物ばかり(妙心寺退蔵院の松山大耕氏・Yahoo!の宮澤弦氏・マネーフォワードの辻庸介氏・ユーグレナの出雲充氏・そしてジーンクエストの高橋祥子氏)なのですが、子ども時代、決して優等生ではない人がほとんどで、驚きや共感のお話、抱腹絶倒のエピソードも満載です。

 そのメンバーに最後に加わったのが、岡田光信さんでした。知り合ったのはずっと前、シンガポールでのこと。そのときに彼も農学部出身だと聞いていました。前述のメンバーに比べると「会社はまだまだこれから」という段階だったのですが、前に話したときにすごく魅力的だったので、この企画に入ってと口説いたのです。

 彼が立ち上げた会社は、アストロスケール。宇宙のゴミ(スペースデブリ)を片付けるという、画期的な視点の会社です。岡田さんの人生はオリジナリティが高く、しかし親として参考になることが多いのが特徴です。幼稚園時代は「たいていの子は、キラリと光るところがあるのですが……。光信くんは小学校に行けば見つかるかもしれませんね」と担任の先生に言われたそうです。ちなみに、お母さまは決して落ち込んではいなかったとのこと。「かわいいこの子は大丈夫」というビジョンがきっとあったのでしょう。

 小学校時代はいわゆるぽっちゃり系で足も遅く、今で言うイジメのようなことも受けたそうです。中高一貫の私立進学校に入学したものの、テニス部に精魂を傾けて、成績はかなり落ちてしまったそうです。そんな彼が、高1のときに人生の転換点を迎えました。NASAのスペースキャンプに参加した時に間近で見たエンジニアの姿がとにかく格好良く映り、しびれたそうです。まさに「思春期・青年期は憧れで動く」の典型です。帰国後は、「あんなふうになりたい」という対象ができたことで、心機一転、普通ではやれないくらいの猛勉強を始め、高3のときには全国模試で一番を取るまでに。東大合格後は、環境問題を解決したくて農学部へ。ところが、研究はおもしろい一方、「このペースで研究していても世界は変えられないぞ」と感じ、また阪神淡路大震災も影響して、公務員になるべく猛勉強。半年の集中勉強で財務省に合格。しかし、働いてみて思うところもあり、大手外資系コンサルに転職。

 さらにおもしろいのはここからです。一見羨ましがられるような経歴なのですが、心の内側では「なんか違う」と感じていたそうで、「自分が一番やりたいことは何か」を己と問答し、たどりついたのが、「やっぱり俺は宇宙のことがやりたかったんだ」ということ。NASAでエンジニアに心底感動した記憶、あの毛利衛さんに直接声をかけてもらったときの感激が、決め手となったそうです。それが39歳!普通はあきらめそうな年齢なのですが、そこから独学で調査し、各種学会にも入り、デブリのことをまともにやれている国や会社が一つもないことを知り、これは絶対にいけると確信し、300本もの宇宙に関する英語の論文を読破して、会社を設立したそうです。ゼロイチとは言いますが、ここまでゼロから専門レベルの高い技術系の会社を立ち上げ切ったのは、すごいことだなと驚きます。

 そして、そういうお付き合いをしていたこの秋、二つのニュースが飛び込んできました。一つは、パリで開催されたユネスコ関連のネテックスプロ※のイノベーションフォーラム2020で、世界の数千の新進企業の中で決勝に残った10社に、アストロスケール社がアジアで唯一入ったのみならず、グランプリまで獲得してしまったのです。その報告を聞いて祝福の言葉を贈ったのもつかの間、今度は、NASAやJAXAはじめ世界の宇宙関連研究機関のほとんどが所属しているIAF(International Astronautical Federation)の副会長に、彼は選任されたのです。一民間の、しかも新興の企業から選ばれるのは、異例中の異例とのこと。つまりこの二つのニュースは、ロケットを飛ばすことに夢中になっていた大多数の中で、誰もやらなかった宇宙ゴミを掃除するという公共性の高い視点を持って行動している実現力が、本当に凄いよと世界から認められ応援されているということでしょう。
※ネテックスプロ(Netexplo)
社会とビジネスへのデジタル技術の影響を研究する独立組織で、2011 年からユネスコのパートナーとして活動している。
 彼の言葉は、考え行動し続けた人ならではの「公式(課題=あるべき姿-現実、実現=思考×実行etc.)」を編み出していたりして本当におもしろいのですが、その中でも私が一番衝撃を受けたのは、「勉学が一番信じられる」という彼の言葉です。これは、NASAでの感動のあと、高校で猛勉強して学年ビリに近い位置からトップに躍り出た経験、半年の集中勉強で財務省に合格できた経験、アラフォーから畑違いの新規事業を立ち上げるために論文300本を読み込んだ経験などから、確信していることだそうです。自分のステージを上げるのには、勉学にまともに取り組むことが、最も効率が良いのである、と。

 「好きこそものの上手なれ」と昔から言われるように、何かに長けるためには、心に火がつき、「好きで仕方ない」状態になることが、最も大きな力になることは間違いありません。私の経験でも、算数・数学はもちろん、社会にせよ理科にせよ、大好きな人こそが、あと伸びしていきました。そしてそのことを、いろいろな方が異口同音の内容として語ってきました。しかし、最近は焦点がボヤけてきて、「子どもに無理やり何かをやらせてはいけない。(ゲームだろうがYouTubeだろうが)本人が好きなことさえやらせれば良い」というような説を語る人も増えてきています。本当でしょうか。

 「好き」を、まず行動を決める中心として大事にすべきは当然として、「自分の夢や目標を達成するために、自分が必要と確信を持った学びであるならば、多少苦しくても強い意志を持ってやり抜く」こともできないと、世の中では通用しないし、事は成せないのではないでしょうか。そう言っている私ですら、「好きに集中」一派として、そこを強調して話していた一人でもありますが、だからこそ、彼の言葉の重みをズシンと感じたのでした。

 この目を持てば、たとえば中学・高校・大学など各種入試も、「希望を叶えるためにやるべきことを選び抜き、決めた課題を一つひとつ逃げずにこなしていく機会。そしてそのことによって、自分の立場や住む世界を上昇させられるということを実体験できる機会」としてとらえれば、確かな意味を持つと思います。「勉学が一番信じられる」。先行き不安な今の時代だからこそ、子どもたちに伝えたいメッセージです。勉学の価値を確信し、自ら決めたゴールに向かって、努力を積み重ね、道を切り拓ける人に育てたいですね。

花まる学習会代表 高濱正伸


著者|高濱 正伸

高濱 正伸 花まる学習会代表、NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長、算数オリンピック委員会作問委員、日本棋院理事。1959年熊本県生まれ。東京大学卒、同大学院修了。1993年、「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、「花まる学習会」を設立。「親だからできること」など大好評の講演会は全国で年間約130開催しており、これまでにのべ20万人以上が参加している。『伸び続ける子が育つお母さんの習慣』『算数脳パズルなぞぺ~』シリーズ、『メシが食える大人になる!よのなかルールブック』など、著書多数。

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