冬休みまで約1か月に迫った5年生の2学期、Aくんと学校のクラスメイトとの間のトラブルが発覚しました。この一件からさまざまなことが見えてたどり着いたのは、Aくんがクラスの約8割からいじめを受けているという実態でした。クラスメイトがAくんの持ち物に触れた手を「〇〇菌」と言ってなすりつけ合ったり、「2メートル以内に近づくな」と言って逃げたり……数えきれないほどのことがあったそうです。
ことの発端は初夏の7月。同じクラスのKちゃんがある男の子から「〇〇菌」と言われ、それが男子5〜6人に広がり、Aくんも一緒に言うよう言われました。しかしAくんは「俺は絶対に言わない」「お前ら、そんなことを言うな!」「Kちゃん、俺は絶対に言わないからね」ときっぱり断り、立ち向かいました。すると10月くらいからAくんがターゲットになり、いやがらせをする子は男子数人から女子にも広がり、11月にはクラス全体に広がりました。Aくんがご両親にそのことを伝えるまで、2か月以上。Aくんはずっと一人で戦っていました。
ご両親が知ったとき、Aくんの心は擦り切れていました。「不登校になりたい」と言ったり、日曜日の夜になると泣き出したり……。滅多に泣かないAくんが、大粒の涙を見せるようになりました。ご両親がしたことは、いじめの首謀者を懲らしめることではなく、Aくんの気持ちをまっすぐ受け止めたこと、「学校に行かなくてもいい」とAくんの心の安全地帯であり続けたこと、そしてAくんが被害者だと決めつけることなく、このできごとを学校側に伝えて連携し、必要な話し合いができるようにしたことでした。
初めて弱音を吐いたAくんがご両親にじっくり話を聴いてもらって出した答えは、「自分が学校に行かないことでみんなが喜んだら、何も解決しない。少し休んでまた学校に行ったときにもっといじめられる。だから、僕は学校に行く」でした。こんなに辛い思いを誰かにさせることは絶対にしないと決意し、一日も学校を休まずその道を貫き通したAくん。担任の先生がクラスの状況を理解しクラスでいじめについて考える時間を設けると、Aくんに謝る子が出てきました。その後もご両親は放課後に学校へ通い、Aくんやクラスの様子を聞いて先生と連携しながら、Aくんの学校生活を見守り続けました。
いやがらせの中心になっていた子たちもAくんに謝りこの件が収束したのは、終業式の前日でした。ご両親がそのことをお伝えくださったとき、「眠れない夜が続きましたが、Aが一番辛かったはずです。本当によく頑張ったと思います」とおっしゃいました。「Aの課題もあるんです。勝負ごとになるとアツくなりすぎてしまうので、みんなにいやな思いをさせることも多いと思います」とも。Aくんが心の灯火を絶やさなかったのは、ご両親が被害者・加害者のレッテルを貼らずに、わが子にもクラスメイトにも同じように“自分の言動を見つめ自分で決めて、より良い未来をつくっていってほしい”というメッセージを伝え続けたからでした。ご両親にぎゅっと抱きしめてもらって自分がどうあるべきかを考え抜いたAくんに続いて、みんなが考え、新たな苦しみを生まない学級を目指したのです。
Aくんにとって、長く苦しい戦いだったはずです。それでも毎朝の「行ってきます」を絶やさず向き合い続け、対話し、解決した。そのことがAくんを、クラスのみんなを大きく成長させました。最初にAくんが諦めていたら、全員の心が変われないまま同じことを繰り返していたかもしれません。
安心して弱音を吐ける居場所と相手を想う心が、人を強くすると信じています。そんな心の安全地帯の一つでありながら、ご両親のようにいちばんにあなたを想う身近な大人であり続けたい。これからもずっと、心の応援団として一緒に見守らせてください。
花まる学習会 清田奈甫(2024年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。