【花まるコラム】『結ばれて、ほどけて、』土方日向 2025年11月

【花まるコラム】『結ばれて、ほどけて、』土方日向 2025年11月

 小学四年生のときに転校した私は、なにもかもが初めてで緊張しきっていました。休み時間、ポツンと席に座っていると、優しく声をかけてくれたAくん。授業の準備を手伝ってくれたり、休み時間に遊びに誘ってくれたり、一緒に帰ったり……。そんな優しいAくんの存在に安心し、いつも彼と一緒に行動するようになりました。
 転校してから一か月ほど経った頃。「ついてこないで!」と突然Aくんに突き放されました。実は、Aくんと仲の良かった子たちが、Aくんと私が一緒にいる時間が長くなったことをよく思わなかったようで、Aくんに対して冷たく当たるようになったとのことでした。 
 いつも遊んでいる仲良しグループから離れることを嫌い、私とかかわりをもつのを拒んだ、ということです。私は、突然の出来事に驚き、すぐに悲しさが込み上げてきて、涙を流していました。もちろん、彼自身も複雑な気持ちを抱えていたと思います。帰宅後は、彼に対する申し訳なさを感じるとともに、せっかくできた友達を失ってしまったかもしれないという憂鬱な気持ちを抱くこととなりました。
 とはいえ、当時の私の心は幼児そのもの。その出来事はすぐに忘れ、新しく仲良くなった友達と、楽しい日々を過ごすことができていました。
 Aくんとは同じ中学校に進学しましたが、そこでも話をすることはありませんでした。彼のことを恨んでいたわけではありませんが、ただ何となく、気まずさだけが残っていました。

 月日は流れ、中学三年生。受験シーズンに事件が起こりました。昼休みに友達とドッジボールをしていたときのこと。友達が投げたボールを避けるためにジャンプをした私は、着地の瞬間に右足をひねり、ポキッという音とともに地面に倒れました。脛の骨が折れてしまい、全治一年の骨折をしてしまったのです。それまで狙っていた志望校は電車通学が必須だったため、通いやすい近くの高校へと進路を変えざるを得ませんでした。当時の私にとって、とんだ災難でした。どうしてこんな大事な時期に……。(しかも、ドッジボールで骨折って……。)
 高校受験、試験当日。門の前まで親に車で送ってもらい、松葉杖をついて校舎に入りました。試験会場は二階だったため、階段を上がらなければなりません。片手で松葉杖を二つ抱え、もう片方の手で手すりをつかむ必要があります。一人で上がることはできますが、杖をつきながら片足で上るのは一苦労です。
 よし、と気合いを入れたとき、「大丈夫?」と後ろから誰かに声をかけられました。そう、小学四年生以来、話をすることがなかったAくんでした。彼は松葉杖を一つ持ち、一段一段、私の隣をゆっくりと上がってくれたのです。階段を上り切ったとき、急に声をかけられたときの驚きと若干の気まずさは、嬉しさに変わっていました。
 偶然にも教室が同じで、試験後も門までサポートしてくれたAくん。同じ高校に入学し、私が松葉杖生活をしている間中、毎朝門の前で待ち合わせをしました。彼のおかげで高校生活を楽しく送ることができたといっても、過言ではありません。小学生のときの話をわざわざすることはありませんでしたが、私はあの頃のように一緒に楽しく過ごせていたことを、心から嬉しく思っていました。

 子ども同士の関係は、大人の目には見えないところで、ほどけたり、結び直されたりを繰り返しているのかもしれません。うまくいかないこともあれば、心が離れることもある。しかし、子どもたちはそのときどきの気持ちを抱えながらも、自分なりのペースで誰かと「つながり直していく力」を持っているのだと思います。
 教室という小さな空間のなかでも、ある週の子どもたち同士の関係性が、次週には少し違った形で始まることもあるでしょう。そういった子どもたちの関係の揺らぎは、心配し過ぎることではなく、むしろ成長の一部としてとらえることもできるかもしれません。

花まる学習会 土方 日向


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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