【高濱コラム】『算数脳』 2025年11月

【高濱コラム】『算数脳』 2025年11月

 9月にG1九州という会議がありました。日本版ダボス会議を目指してグロービスの堀義人代表が生み出されたG1サミットの地方部門です。私も12年前から参加しているのですが、メンバーがものすごい方ばかりでいつも学びに満ちています。さて、そのG1九州は熊本で開催されたのですが、250名ほどのなかにとても嬉しい参加者がいました。福岡県行橋市の工藤政宏市長です。
 花まる創業後、最初の6年くらいはほぼ私とアルバイト講師でまわしていたのですが、業績が頭打ちになったときに忽然と登場し、正社員として参画してくれた4人の仲間がいました。個人業から一気に「チーム」になり、俄然と会社のパワーがアップし一気に会員数も伸びたのでした。その4人のうちの一人が大学新卒の工藤くんで、「私はいつか故郷である行橋市の市長になって教育改革をしたい。教育業界でいろいろ気になる教室や会社を見たけれど、花まるで修行したいです。3年間学ばせてください!」と懇願してくるのでした。最初はサマースクールのアルバイトリーダーとして参加してくれたのですが、夜道に瞳が輝く独特のオーラがあり即採用。コスパなど考慮しない情熱に満ちた大人気教室長でした。
 修行のあともコツコツ地歩を固め、20年かけて夢を実現し、既得権益陣営からのいやがらせや攻撃(?)もしのぎきって頑張っています。福岡市の高島市長はじめ、すごい市長さんたちに交じって一期目にして推薦されてG1に参加した姿には、親心というのか胸が熱くなる感じがしました。これからの市政の進化が楽しみですし、応援しつづけたいと思います。

 さて、失われた30年という言葉に象徴されるように、世界二位の経済力を謳歌した日本は滑り落ちました。さらに世界は各地で戦争が勃発し混乱を極める一方です。そのような不確かで不安定なこれからを生き抜くために、国家としてどのような方針を持つべきでしょうか。
 個人と同じで「弱みも強みも正しく見る」ことがスタート。モラルの高さや思いやり・おもてなしの心、真面目さなど日本の教育が育んでいる素晴らしい伝統や成果は大事にしつつ、私が国家の柱にすべきと考えているのは「数理思考力」です。
 江戸時代の和算や算額(問題と解答が書かれた絵馬)・塵劫記(江戸時代の算術書)などに現れた数理思考力教育・文化水準は、世界でも最高水準でした。この力の蓄積は、庶民全体の読み書き算盤を支えた寺子屋とともに、明治維新以降、科学技術立国として繁栄する強力な土台となりました。国全体としてのし上がろうというハングリー精神も相まって、のちの世代に詰め込みと揶揄されようが、エリート層がきちんとハイレベルの学力を身につけていた時代であり、アカデミック(大学教授や研究者)が尊敬されていた時代に学んだ昭和生まれの世代からは、いまだに多くの医学・化学・物理学等理系のノーベル賞受賞者が生まれています。ゆとり世代以降の学力・経済力の地盤沈下は残念ですが、まだまだ継承しつづけてきた遺産ともいうべき数理思考力に希望は残されています。江戸時代に源流を発するわが国のこの数理思考力育成の土壌の厚さと豊かさは、国の繁栄の基礎として大切にしなければならないものです。

 その視点において、花まるグループの果たすべき役割は大きいと考えています。そもそも最初に出した本の名が『小3までに育てたい算数脳』(エッセンシャル出版社)であったり、私が算数オリンピックの作問委員や理事をやっていたりしたこともあり、花まるは数理思考力育成の開拓者でありつづけました。
 『小3までに育てたい算数脳』で書いた要点はこうです。計算力はきちんと押さえるべきですが、所詮「作業力」にすぎない。本当の頭の良さはまったく別だということで、
①見える力(補助線や立体の裏側が見える力、要点や本質が見える力)
②詰める力(論理的にバグやモレなく考え詰める力、最後までやり切る力)
に着目し、なぞぺーという問題群を創造しました。これはのちに「弟子」である川島慶によって、「Think!Think!」や「ワンダーボックス」等に発展していきました。
 花まる学習会では途中から「学力の両輪」としての「国語力(漢字・語彙力・読解力・表現力)」の大事さにも気づき、国語力育成のプログラムも増えましたが、授業内で数理思考の余力が溢れる猛者候補の子たちに向けて、レインボータイムという独自の学力傾斜型の高難度思考力問題群も開発してきました。

 スクールFCもそうです。早くも15年前になりますが、初めてテレビに出たのが「情熱大陸」(毎日放送)でした。そのとき、雪国スクールや講演会など多面的に取材してもらえたのですが、メインは授業。当時スクールFCで私がやっていた中3の「スーパー数学」と小4向けの「特算(特別算数)の青空授業」はかなりの時間を割いて放映してくださいました。そのとき「主役」として取材された中3のNくんは、いま医師として活躍していますし、小4の「特算」で公園の電柱の高さを測定すべく葉っぱを3回折って45度の角度を見つけだした男の子たちも、東大や京大の理系に進学し研究に専心しています。

 そのときは取材されませんでしたが、総合力育成の花まる学習会とは別に、25年くらい前に算数オリンピック委員会と共同で、「アルゴクラブ」という数理思考力育成の専門教室も開発しました。卒業生インタビューを読まれている方はご存じの通り、花まる学習会とアルゴクラブの併用生には、のちの東大生や医学部生が多いのですが、ある意味当然というのか数理思考力に特化した教室の効果が出ているのだと思います。
 そして現在、もともとのグループ一番の強みである数理思考力について、レベルアップしていこうと考えています。アルゴクラブ・シンクシンク等の良いところ・上澄みを残し、敬愛する「いもいも」の井本陽久先生のご協力も得ながら世界初の思考力問題群を取り入れて、最新鋭の数理思考力授業としてバージョンアップし、来年度から世に問うことにしました。思考力講座「算数脳ラボ(略称:算ラボ)」です。ご期待ください。

 ちなみに、ご家庭ではどう伸ばせばよいかは、『小3までに育てたい算数脳』や『本当に頭がいい子の育て方』(ダイヤモンド社)等の著書群を読んでいただくか私の講演を聞いていただくのが良いとは思いますが、簡潔に書いておきます。
 要点をまとめると、
①迷路にはじまるパズルやなぞなぞ群を楽しみ、やめられない子に育てる。
②囲碁やアルゴ、将棋等の高度な数理思考を伴うボードゲームを楽しみ夢中になる子に育てる。
③パズルのなかの一手やアルゴの一手について「論理的で過不足のない説明」ができる子に育てる(どちらかと言うと父親が得意な領域)。
④トランプ程度の遊びでも負けると泣いて悔しがるような子は伸びる素質あり。
⑤毎日決まった時間に宿題や漢字練習をするというような「習慣の力」を育てる。
⑥自然のなかの外遊びを存分にさせる。
⑦算数オリンピックや富山県児童生徒思考大会の問題のような思考力問題群を大好きで楽しむ子に育てる。
⑧親が思考力問題(レインボータイム・Sなぞぺー・算数オリンピック問題)や囲碁、アルゴを楽しんで解く姿を見せる。

 誰も先を見通せない技術革新と変貌の時代。わが子にはどんな時代になっても芯となりパワーとなる数理思考力を育ててあげたいですね。

花まる学習会代表 高濱正伸


🌸著者|高濱正伸

高濱 正伸 花まる学習会代表、NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長、算数オリンピック委員会作問委員、日本棋院理事。1959年熊本県生まれ。東京大学卒、同大学院修了。1993年、「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、「花まる学習会」を設立。「親だからできること」など大好評の講演会は全国で年間約130開催しており、これまでにのべ20万人以上が参加している。『伸び続ける子が育つお母さんの習慣』『算数脳パズルなぞぺ~』シリーズ、『メシが食える大人になる!よのなかルールブック』など、著書多数。

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