「人生は有限です。何をしていても、必ずおしまいのときが来るよね。今日のこの時間も、いつまでもは続かない。では、もしもみんなが一生懸命に何かをしているときに、急に大人がやって来て『ハイもうおしまい。片付けて』と言ったらどう感じる?」
そうやって禅問答のように子どもたちに問いかけることから、授業は始まります。
「いやだなあって思う!」「まだやっているのにって言う」……子どもたちは自分の気持ちを想像し、口々に答えます。
「実は、おしまいが来たとしても、いやだなあって思わない方法がひとつだけあります。それはなんだと思う?」問いかけは続きます。
何度も参加したことのある子は「時間を見る!」「自分で!」と答えてくれます。
このとき、発言はしなくても自分の気持ちをその場で想像してみているのか、自分の気持ちではなく、正しい答えは何なのかに意識がいって答えに詰まっているのか、普段から自分の頭を使った話の聞き方をしている人なのか、前に立った人への意識の向け方も同時に見ています。子どもたちの意欲やその日のこころの状態、ひいては体幹のあるなしまでもが、聴く姿勢には表れるからです。
「そうです。時間というものは、“時計”を使うことで“自分の目で見る”ことができるんだよね。大事なのは、自分で確認する、ということだね。誰かの決めた時間で動いているから“いやだなあ”と思うけれど、自分で『あの時間までに全力を出し切ってやろう』と決めていたら、時間が来ても気持ちを切りかえられるんだね」
たとえ誰かが決めた時間に従って何かをしなくてはいけないときでも、「頭とこころを切り替え」て、自分の人生を自分で作っていると言う感覚を持てていると、自分の気持ちに正直に生きることができます。そのことがもたらす、自信、充実感。
終わりはあるとわかっているからこそ、時間を無駄にせずやり抜きたいという自我も芽生えます。締め切りという期限付きのなかで、ベストを尽くして、誰かの笑顔のために意味のある仕事ができる。子育ても含めて、いまはいましかなくて、そもそも人生は有限なのです。
「はやくしなさい」でも「もうおしまいだから」でもなく、自分が大切だと信じた哲学を軸に、「自分で終わりだと決めたんだ」という納得を、いつもしていけるかどうか。
「有限な時間のなかでベストを尽くす、時間に振りまわされない自分」というものを獲得することができるように。有限な時間をどうやって濃密に使うのかは、自らの意思によってデザインすることができるものなのです。
限りある時間を使って自分を楽しませることのできる大人の後ろ姿から、人生とは自分の好きなことをしてとことん楽しまなくっちゃという意思のようなものを、子どもたちはきっと学んでいくはずです。そんな気持ちで、今年も子どもたちの前に立っていきます。
今回は「アートのとびら きはん」の「じかんがきたらおしまい」について解説しました。2024年もよろしくお願いします。
井岡 由実(Rin)
🌸著者|井岡由実(RIN)
国内外での創作・音楽活動や展示を続けながら、 「芸術を通した感性の育成」をテーマに「ARTのとびら」を主宰。教育×ARTの交わるところを世の中に発信し続けている。著書に『こころと頭を同時に伸ばすAI時代の子育て』 (実務教育出版)ほか。
「Atelier for KIDs」は、 小さなアーティストたちのための創作ワークショップです。
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