【松島コラム】『できないことに向き合う』 2023年2月

【松島コラム】『できないことに向き合う』 2023年2月

 私が受験学習を通して子どもたちに身につけてほしい学習観のなかで、特に大切だと感じているのは、「わかったつもりにならない、わかったふりをしない」ということです。学習観とは「学ぶときの心構えや姿勢、考え方」のことです。大人でも日々仕事に追われるなかで、ややもするとわかったつもりになったり、わかったふりをしていたりすることがあるかもしれません。しかし、高いレベルの課題やハードな作業に取り組んでいるときこそ、自分が本当にわかっているかどうかというメタ認知の力が、その後の成長のカギになっているように思います。
 ①「わかったつもり」と②「わかったふり」は似て非なるものです。
 ①「わかったつもり」になっているとは、「答えが合っていたのでこの問題はできた」と勘違いしていたり、先生の解説を聞いて「この問題は理解できた」と思い込んでいたりするような状態です。
 親が子どもに勉強を教えるときも注意しなくてはいけません。
 親:「この問題はこうやってこう解くのよ。わかった?」
 子:「うん、わかった」
 親:「じゃあ、この類題をやってみて」
 子:「???」
 親:「聞いてなかったの?もう一度説明すると、ここはこうして……わかった?」
 子:「うん」
 私たち教える側も気をつけていることですが、子どもの「わかった」という反応をそのまま鵜呑みにしてはいけないときがあります。わかったつもりになっていないかを確かめるには、どうしてその答えになったのか説明させるといいでしょう。多少たどたどしい部分があっても、大筋が間違っていなければ構いません。あまり完璧を求めすぎないことです。論理的な説明にこだわりすぎると、子どもがいやになってしまうことがあります。
 自分自身で本当にわかっているか俯瞰できるようになれば、一つの問題における学習の質は格段に上がります。それとは反対に、わかったつもりのまま量をこなしても成果は上がりません。時間がないときは授業で扱った例題だけでも自分で説明できるようになっていれば十分です。FCが育てたい「自学ができる子」というのは、わかったつもりになっていないか自分自身で気づける子でもあるのです。
 ②「わかったふりをする」というのは、わかっていないのに、わかっているように見せかけるということです。たとえば宿題の答えを写してしまうようなケースです。たまに学校の宿題と同じように、「出された宿題は全部やらなくてはいけない」「とにかくノートを全部埋めて持っていかなくてはいけない」と思い込んでいる子がいます。また、高学年になるにつれて、わからないことが恥ずかしくなり、それを隠そうとする子も出てきます。自分への自信のなさや親との関係性が原因のときもあります。拙著『中学受験 親のかかわり方大全』(実務教育出版)のコラムでは、父親の期待にこたえられない自分の不甲斐なさに悩み、カンニングまでしていた女の子の事例を紹介しました。受験までに改善できる時間があったのでよかったですが、まわりの大人が気づかずにそういう行動をとらせてしまっていたことに心を痛めました。日頃から何でも言える親子関係を築いておくことが本当に大切だと改めて感じた事例でした。
 FCのノート法では、「〇×(マルバツ)チェック」「×(バツ)解き」という言葉があります。できた問題には〇(マル)、できなかった問題には×(バツ)、わからない問題には?(はてな)マークをテキストにつけておき、時間をおいて解きなおすという基本的な学習法です。?(はてな)をつけた問題のなかには解説を読んでもわからない問題もあると思います。そういうときこそ、自学室に来て質問するようにお子さまに促してください。
 受験を目指す過程ではたくさんのできない壁に当たります。しかしできないことは決して恥ずかしいことではありません。むしろできないことに向き合い、それを乗り越える努力をすることを楽しめる子を育てていきたいと思います。

スクールFC代表 松島伸浩


🌸著者|松島 伸浩

松島 伸浩 1963年生まれ、群馬県みどり市出身。現在、スクールFC代表兼花まるグループ常務取締役。教員一家に育つも、私教育の世界に飛び込み、大手進学塾で経営幹部として活躍。36歳で自塾を立ち上げ、個人、組織の両面から、「社会に出てから必要とされる『生きる力』を受験学習を通して鍛える方法はないか」を模索する。その後、花まる学習会創立時からの旧知であった高濱正伸と再会し、花まるグループに入社。教務部長、事業部長を経て現職。のべ10,000件以上の受験相談や教育相談の実績は、保護者からの絶大な支持を得ている。現在も花まる学習会やスクールFCの現場で活躍中である。

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