【98】それは優しさであり強さである
前回の花まる漢字テストで、お母さんがAくんにかけた言葉に胸を打たれました。
「人間誰にでも間違えはあり、今回先生は間違えてしまった。他者の間違えをラッキーと捉えて自分が得をするよりも、それを手放してでも間違えを教えることの方がお母さんは素敵だと思う。なぜなら、間違えを許すことは、優しさであり強さだと思うから。間違えを教えてあげることで、相手を救うこともあると思うから。良い嘘もあるけれど、このまま言わないでいることは、お母さんは良い嘘ではないと思う」
花まる漢字テストの1か月前、前回特待合格だったAくんのお母さんは「飛び級をしません」と伝えてくれました。以下は、後に伺ったお話です。
前回の花まる漢字テストにて、採点ミスがありました。Aくんは『船』の書き順を答える問題で、正しくは「6」のところを「4」と書いてしまったのに〇がついていたことに気が付いたAくん。Aくん自身、元々自分が間違えたと分かっていたため、返却時に採点ミスだと気が付いていました。3問間違えたはずなのに特待合格の大きな賞状を貰えて、正直なところ「ラッキー」と思ったのです。帰宅後、お母さんがAくんに気持ちを聞いたところ「言いたくない」と言いました。そこで伝えたのが、冒頭に載せたお母さんの言葉。その言葉がAくんの心を動かしたのです。Aくんは泣きながら聞いていましたが、それでも「言いたくない」と意地を張ったとのこと。少し考える時間を置こうと思い、お母さんはしばらく話さなかったそうです。以下、授業前日にいただいたお母さんからのメールの一部を少しだけ補足しながらご紹介します。
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今日本人に自分から言うかどうか聞いた時も、やはり迷いがあるようで最初は「言いたくない」と言っていました。しかし考えて、考えて、葛藤して、葛藤して、暴れながら葛藤して…先ほど「やっぱり言うことにした」と心に決めたようです。決めた後の本人はスッキリしています。明日自分で言うか、もしくは授業後に私と一緒に言うか分かりませんが、連絡帳には書いて欲しくないという本人の意思を尊重したく、ただ、真意をお伝えするには時間が足りなそうなため、事前にメールさせて頂きました。息子に、「Aの決めたことを誇りに思うよ」と伝えると、とても嬉しそうでした。今回の機会をプラスの経験に変えていけたこと、心からありがたく思っておりますので、先生方にもそう捉えて頂けたらと思います!
Aにとって「プライドが高く失敗するのが苦手」という自分の弱さと向き合い、気付き、受け入れようとするとても良い機会になりました。「失敗」を大きく受け取りすぎる息子は「失敗」=「もう終わりだ」と絶望することが多々あります。でも、今回逃げなかった息子は、悔しい想いをした以上に大切なものを学び、また一つ大きくなれたように思うのです。完璧を求めるという性格も、見方を変えると「上を目指したい」という良さでもあると思うので、失敗してもそれで終わりじゃない、と思えたら…自分の弱さを受け入れることで良さへと変えていっていけたらなぁと願っています!
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今回の採点ミスはAくんの成長に繋がったものの、ミスをしていいわけではありません。お母さんにかけていただいた言葉に感謝し、今後同じミスを繰り返さないよう、採点のたびにこの事実を振り返ります。
一度手にした得はそう簡単に手離せません。ましてや小学生なら尚更。なかったことにできるのであれば、そうしたいものです。しかし今回のように誰かのミスで自分が得をした場合、心のどこかでモヤモヤしてしまうはず。このモヤモヤを消すためには相手のミスを認め、受け入れる優しさと強さが必要です。その優しさと強さは相手を成長させます。Aくんが私のミスを認めて受け入れたことで、私の採点に対する意識を変えました。優しさは人の心を動かします。Aくんが同じ状況に遭遇したとき、逆の立場になったとき、本当に選択すべき方を選んでいけるはずです。Aくんの優しさと強さが、お母さんの熱い言葉が、私の心を大きく動かしました。