【99】フォレスト・ガンプ

 たくさんのご家庭と面談をした1学期でした。成長をしているか、授業を楽しんでいるか、教室ではどのような様子か、課題は何か、今後家でできることはないか…。各家庭に合わせてさまざまなお話をしました。家庭によって方針は違う。お子さまの性格や特性も違う。保護者の皆様の多様な考え方に触れ、時には一緒に考えました。どの家庭とも同じ話をしていないという事実は、教育・子育てに正解はないということを証明しています。

 教育分野は正解がないからこそ面白い!とは言ってみるものの、人間だれしも答えが欲しいと思うのではないでしょうか。私も「誰にでも当てはまる正解があれば楽なのに!」と思うときはあります。そんな中、面談もひと段落し、週末、トム・ハンクス主演の『フォレスト・ガンプ』という映画を見ました。その映画をみて「答え」を見つけたような気持ちになったのです。

 主人公のフォレストは知能指数が低いですが、純度の高い誠実さを持った人です。打算も野心もなく、人との出会いを大切にし、人に対してまっすぐ向き合う。アメリカの激動の時代を自分らしく生きていく。その姿を淡々と描いたヒューマン映画です。フォレストがまっすぐに生きることができたのは、フォレストのお母さんの言葉があったからだといえます。

 You have to do the best with what God gave you. 
 (神様があなたに与えたものでベストを尽くすのよ。)

 これは、私がこの映画で一番好きなセリフです。そしてこれがなんだかんだで、本来大切にすべき教育・子育ての「答え」だと思っています。情報化社会の中で私たちは、どこか人と比べ、他人をうらやみ、足りないものを埋めようとし続ける、そんな部分があるといえるかもしれません。もちろんより良く、より高くという向上心は大事です。ただ、神様から与えられたものでベストを尽くす。その視点を忘れずに皆がそう生きていけたら、きっと多くの人にとって生きやすく幸せな世の中になると思います。

 雪国スクールで私がリーダーとして参加したときにこんなことがありました。私の班にいた4年生Sちゃんと5年生Kちゃん。二人とも感情のコントロールが苦手であり、言葉にすることが上手ではないと事前共有を受けていました。2日目、その二人がケンカをしたのです。じゃれあっていたら、いつの間にかぶった、ぶたれたでケンカになった様子。

 花まる学習会の野外体験では、ケンカをするのは大いに結構。ただ自分たちで仲直りして戻っておいで、と伝えています。しばらく様子を見ていましたが、二人は行き詰っているようでした。「仲直りしたいと思う?」と私が助け舟を出すと、二人ともコクリと頷いたのです。気持ちを確認できたところで、どう仲直りするのか…と見ていました。すると、Kちゃんが近くにあった車の下にできている大きなつららを折りました。そしてそれを手のひらにのせて、Sちゃんに差し出したのです。「きれいでしょ。きれいなものSにあげる。」太陽の光でキラキラ光るつららを見つめた後、Kちゃんを見てにっこり笑ったSちゃん。こうして二人は仲直りしました。

 言葉で伝えるのはうまくないかもしれない。でも、Kちゃんはどうしたら目の前のSちゃんが喜ぶか考える力を持っていました。それを行動に移す力も。そして仲直りしたい気持ちはしっかりSちゃんに伝わりました。言葉がなくても。神様はKちゃんに素直な心と行動力を与えていて、その与えられたものでKちゃんはベストを尽くしたのです。「きれいなものを相手にあげる」私には出せない答えであり、私にとっていつまでも記憶に残したい大切なシーンです。

 足りないものを埋め続けるのが教育ではなく、その子が持っているものでベストを尽くせるように背中を押すというのが、だれもが大切にすべき「答え」だと思います。先に紹介した『フォレスト・ガンプ』は映画です。現実は悩みだらけでうまくいかないことも多いはず。でもこの視点を頭の片隅に置いておくだけで、より幸せな判断ができると思います。子どもたち一人ひとりが与えられた宝物に気づけるように。そしてそれでベストを尽くせるように。そんな機会を教室で、そして野外体験で作っていきます。

 

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