【95】自分は自分の味方
高学年の子どもたちに「何をしているとき、どんなときの自分が好きか」というテーマ作文を自由課題として出しました。「何が好き?」と聞くと、ゲーム、寝ること、などが出てきがちです。しかし、ゲームをしているときの自分が本当に好き?寝ているときの自分が本当に好き?と聞くと、「う~ん」と子どもたちも迷います。
「体操をしているときの自分が好き。なぜなら集中していてあっという間に時間が過ぎるから。」
「友だちに勉強を教えているときの自分が好き。友だちが問題を解けて嬉しそうにしていると、自分のことみたいに嬉しくなるから。」
この作文を読むだけで、将来自立して、周りを幸せにしていく大人になるんだろうなあといつも以上に感じられます。たくさんの素敵な作文の中で特に印象に残ったのが、5年生のSちゃんの作文です。
「前はモヤモヤしていて、自分の中でヒミツにしていて、自分の中で何かと戦っていました。でも、少しずつ軽くなり、戦っていることが分かってきて、自分は自分の味方だということが分かり、自分をだんだん好きになってきました。」
Sちゃんは周囲の環境に敏感で、大人数の場所が苦手、ちょっとしたことを気にしやすい繊細な傾向があります。席が一番前だと後ろからみんなに見られている気がして、集中できない。友だちがひそひそ話をしていると、自分のことを言っているのではと思う。間違いを指摘されるのを極度に嫌がるなど…。
彼女は心の中にいるもう一人の彼女とたくさん戦ってきたのでしょう。感じたくないことを感じ取ってしまったり、言いたくないことを言ってしまったりする嫌な自分と対峙してきたのでしょう。多くの葛藤を乗り越えて出た、「自分は自分の味方」という彼女の凝縮された言葉にグッとくるものがありました。
他人の言動で傷つくことは当然あります。でも、自分で勝手に自分を苦しめていることも案外多いのではと思うのです。○○くんより点数を取れないと比較する、他人からの評価を気にする、自分はできないとコンプレックスを持つ。それらを突き詰めると、実は自分が気にしているだけで、周りは気にしていないことのほうが多い。他人が思っている以上に気にしていないことは、服装や髪形でもよくありますよね。
一番長い時間を過ごすのは他の誰でもなく、自分です。学校に行くときも、友だちと遊ぶときも、ご飯を食べるときも一緒。大人になって一生を終えるまでずっと一緒。自分の人生に一番濃密にかかわる存在だからこそ、自分を傷つけるような相手にするのではなく、優しく受け止めてくれる存在がいいなあと思います。
私自身も中学や高校くらいの思春期は周りの目を気にして、理想を凝り固め、自分の首を絞めていました。その中で少しずつ変えられるようになったのは、たくさん転んだからだと思います。私のミスで先輩の試合を台無しにしてしまったり、練習で何度も同じミスをして叱られたり。大学受験で浪人したこともいい経験でした。
たくさん失敗して、起き上がるのがやっとなくらい転び回ると、比較や評価がそぎ落とされ、本当に大事にしたいことだけが残り、徐々に自分で自分を認められるようになりました。こんな自分じゃダメと変な焦りがなくなったと同時に、失敗に臆せず挑戦できることも増えました。
自分を認められるようになったSちゃんも以前に比べて、失敗を恐れなくなりました。昨年までは全体に問いかけても発言することはありませんでした。しかし、最近は挙手して発表することもあります。間違えた後にもう一度発表することも。そんなSちゃんを見ると、もう一人のSちゃんが優しく受け止めてくれているんだろうなと思います。
「近くにいて一番わかりづらい存在の自分。」
気づかないうちにいつの間にか自分に刃を向けていることがあるかもしれません。そんな時は決して反抗せず、温かく受け止めてあげると、自分を支えてくれる最高の味方になるのではないでしょうか。