【94】刻まれる言葉
子どもの頃、大人に言われて記憶に残っている言葉はありますか。嬉しかった言葉・傷ついた言葉、人それぞれだと思います。私が授業をしていて感じることは、子どもたちは嬉しい言葉を言われた次の授業ではその言葉が背中を押しているということです。
先日、こんなことがありました。低学年クラスで行っている転写の教材「あさがお」の話です。授業でも行いますが、宿題としても1日1ページ進めます。1年生のI君は授業で始める前からうきうきしています。いざ書き始めると「あっ、『の』だ!俺、ママに『の』上手だね。って言われているんだよな~。」と笑顔でつぶやいた後は、集中して取り組みました。授業後にも「俺、『の』が上手いんだよね。」と誇らしげに話していました。
年中から小学6年生、すべてのクラスに共通して、自分に自信があることは活き活きと取り組んでいる様子が伺えます。その自信のきっかけになるのが大人の言葉であることも多いのです。
一方で反対の場合もあります。これは私自身が実際にかけられた言葉です。中学1年生の時に粘土で落花生を作る授業がありました。自分でも得意ではないと思っていましたが、それまで評価をされていなかった私は楽しみながら作っていました。私が提出した作品を見て先生が怒りました。「〇〇君、スパイクを作っちゃだめだよ!」目から鱗でした。私が当時陸上部だったのでそう見えたのでしょうが、悪気のない先生のその一言をきっかけに、私は何かを作ることに対し、苦手意識を持つようになりました。
一度かけられた言葉の魔法は中々解けません。今でも絵を描いたり工作をする時にその言葉が頭をよぎることがあります。
プラスな言葉は自分の中に積み上がり、知らないうちに自信を育んでくれます。マイナスな言葉は、一言で「自分はそうなんだ。」という暗示をかけてしまうことがあります。
では、苦手意識を克服することはできないのでしょうか。決してそうではないと私は思っています。これまで授業をしていて最初は苦手と言っていたことが得意になった子がたくさんいます。例えば漢字。
2年生で入会したT君は、花まる漢字テスト(年に3回あります。)で70点が合格のところ、32点でした。終わったあと「俺、漢字嫌いだから。」とふてくされていました。「Tはできるようになるよ。だって漢字に魔法はないんだから。やればその分だけできるんだよ。」と伝え、次回テストに向けてお母様と連携を取り、初めは嫌々ながらも練習を始めました。そして次のテスト、74点見事合格。「よっしゃ~!!」と喜ぶT君にお母様が「やったじゃん!頑張った成果出たね。」と一言優しいまなざしで声かけしました。その言葉でT君は自信がついたようで、次回テストは96点で特待合格。(特待は96点以上)その次は、とうとうクラスで唯一の100点満点。級も上がる中での見事な頑張りでした。その時には苦手意識を持っていたT君の姿はありません。
すべてが上手くいくとは限りませんが、自分の頑張りが成果として現れ、信頼のできる大人から認められた瞬間、負の魔法は解けることがあります。その瞬間を授業内でこれまで数多く見てきました。頑張っている過程は無理に褒める必要はありません。その取り組みを「今日もやったんだね。」と認めて声をかけてあげることが大切な様です。
花まる学習会では「承認」を大切に指導しています。「100ポイント!」もそのひとつです。ポイントをもらえた瞬間に「私って頑張ったんだな。」という小さな自信の積み上げができるようにしたいと考えています。
もしお子様が「苦手」と悩んでいる分野がありましたらお気軽に連絡帳にご記入ください。小さな目標を立てながら連携して声かけができればと思っております。