【93】勝負の先にあるもの

 今年のサマースクールもたくさんの子どもたちに出会えました。親元を離れて不安に思うこともあったかもしれませんが、帰るときに「サマースクール楽しかった!また行きたいよね!」と話をしている子どもたちがとても愛おしく感じました。

 今回のサマースクールでは「サムライの国」に参加することが多く、そこで宿の大将も務めました。サムライ合戦は宿ごとの三つ巴(もしくは四つ巴)で対戦を行います。スポンジの刀を振り、相手の太腿についている紙風船を狙います。夜の活動では軍議という作戦会議も行われ、チーム一丸となって立ち向かいます。「できれば勝ちたい」というのがどの大将にとっても本音です。勝ち負けがつくシビアな状況、その中での私の葛藤と子どもたちの成長についてお伝えしたいと思います。
 8月中旬のサムライの国でのこと。初日の合戦で私が大将を務めた◯◯軍は大敗しました。ほとんどポイントを取ることもできていません。私の采配が上手くいかなかったということはありましたが、「どう考えても相手と力の差がある」と感じてしまいました。ここからどうやってチームを勝ちに導いていけるのか…。宿までの帰り道、私の足取りはとても重いものでした。

 その夜のリーダーたちとのミーティング。子どもたちの面倒を見ているリーダーたちに今、自分が感じている気持ちを正直に伝えました。「このチームで勝つことは難しいかもしれない…」責任者としてリーダーたちを不安にさせてはいけないという考えもよぎりましたが、勇気を出して打ち明けました。するとリーダーたちは「でも子どもたちはとても楽しんでいますよ!勝ち負けにこだわっていないみたいです。」私は勝敗ばかりに気をとられていましたが、思い返せば確かに子どもたちには笑顔が多く、「またサムライやりたいよね!」と言っている子が多かったのです。もしかして、私は勝ち負けに囚われ過ぎていたのか…。そんなことを考えているとまたあるリーダーから「そうですよ!特に子どもたちは軍議が大好きみたいで、たくさんサムライ合戦のことを話していますよ!」それぞれの部屋では子どもたちは常にサムライのことについて話していたのです。そもそもの大前提としてサマースクールを楽しむことが大事だったのに、私は目先の勝ち負けに目を曇らせてしまっていたのかもしれません。「よし!方針を変えて、もう一度明日戦おう!」

 前日のミーティングで決めたことを子どもたちにも伝えます。「大将からの指示は極力控えるので、班ごとに話し合ったことを合戦で実現させていこう!」周りの軍がきれいに一列で並んでいるところ、私が担当する◯◯軍は点でバラバラの動きです。しかし、逆にこれが功を奏したようで、昨日よりもポイントを取る◯◯軍。そして子ども大将戦を迎えます。子ども大将戦は今まで入っていたリーダー(大人)たちは全員フィールドから出て、子どもだけで行う合戦のことです。他の宿は大人たちから指示をもらって動いていたところ、こちらの◯◯軍は子どもたちが考え、そしてそれを実践する戦い方をしてきました。だからこそ一人一人に意思を感じる動きが出来ています。そしてついに◯◯軍の子が相手の子ども大将の風船を捉えます。間違いなく刀は紙風船に当たっていたのです!が、無情にも風船は割れることがなく試合終了となりました。
 ここで私はもう満足していました。昨日から振り返って、こんなに成長している姿を見せてくれた子どもたちを誇らしく感じていました。しかし、子どもたちを見てみると、みんな黙り込んでいます。昨日は勝負がついた後もワイワイと騒いでいた子どもたちが、今は黙り込んで悔しいその気持ちを飲み込んでいます。「そうか、子どもたちは私が想像しているよりも、もう一歩先へ成長したんだな。」

 勝負は勝てば高揚感を、負ければ敗北感を感じるものです。やるからにはもちろん勝ちたい、それが本音です。しかし、負けることも子どもたちの糧となっているのは間違いありません。そしてサムライとはまた別の「合戦」に出たときに子どもたちの力になってくれるものと私は信じています。

 

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