【92】ここをなるべくぬらさないようにしてください。
花まる学習会では、7月・8月にサマースクールという野外体験イベントが行われます。私は班のリーダーとして参加し、間近に子どもたちの葛藤や成長を見てきました。その中で、私が子どもと接するうえで大事にしていることに繋がるエピソードに出会ったのでお伝えいたします。
物語の主人公は4年生Rくんです。Rくんは一言で表すと「大人の部分と子どもの部分の差がとても激しい子」。社会に対する問題意識が高く、特に環境問題に関しては「このままだと未来の人が住めないから、僕が環境問題を解決しないといけないんだ!」と熱弁するほどです。反対に、片付けや着替えが得意ではないようでした。脱いだ服や使った歯ブラシなどはリュックに入れずに床に放置。着替えようと思って着た服は、今脱いだ服だった、なんてこともありました。Rくんは「なんで片付けも着替えもできないんだー!僕はだめなんだ!」と嘆いていることも。しかし、そのセリフから『やりたい』という気持ちはもっていることが分かります。やりたくてもできない自分に怒りを向けているのです。
サマースクール2日目の夜、子どもたちはお布団を敷いて寝る準備をする頃、私は手を洗いに洗面所に行きました。すると洗面台の脇、ペーパータオルに鉛筆で書かれた『ここをなるべくぬらさないようにしてください。』の文字。近くに鉛筆を持ったRくんがいたので、私は「これRくんが書いたの?」と聞くと、「そうだよ。」と答えました。どうして書いたのか聞いてみると「お掃除が大変になっちゃうから。」とのことでした。私はRくんの他人を気遣う気持ちに心打たれました。思えば、環境問題に関しても『未来の人が住めないから』と他人を気遣っています。Rくんはとても思いやりのある子なのです。
サマースクールでは最終日に賞状を渡します。この数日間、頑張ったことを表彰するもので、私と1対1で話す最後の時間です。Rくんはその時「サマースクール何もできなかった。準備も片付けもできなかった。来なければよかった。」と話していました。私は『それは違うと思うよ。確かにRくんは片付けや着替えは苦手かもしれない。でも、Rくんは他の人を思う心が強いところが素敵なところだよ。洗面所の紙見てRくんかっこいいなと思ったよ。できないことがあってもいいんじゃないかな。Rくんは人間でしょ?人は支えあって生きているんだから苦手なことは他の人にお手伝いしてもらえばいいと思うよ。その代わりRくんも思いやりの心でたくさん人を助けてあげてね。』と伝えました。Rくんは「うん、わかったよ。」と一言。Rくんにどう響いたかはわかりませんが、少しでもできない自分を受け入れる後押しになればいいなと思います。
人には得意不得意が必ずあります。私は必ずしも不得意を得意にまでする必要はないと思っています。なぜなら人は1人で生きているわけではないからです。周りには自分が不得意なことを得意とする人が必ずいます。その人に助けてもらえばいいのではないでしょうか。その分誰かを助けることを忘れなければ。
今後も、子どもと接する際にはできない自分をまずは受け入れられるような声かけをしていきます。