【86】ぶつかり合って学ぶ
花まるでは毎年、7月下旬から8月中旬にかけてサマースクールを実施しています。コロナ禍で全面中止となった年もありましたが、今年度は感染対策を徹底して実施いたしました。
川遊びで8人の男の子班を担当した時のことです。この班は低学年・高学年関係なく非常に仲が良く、川遊び中はみんなで協力して魚をとり、部屋では全員で人狼ゲームをやり、部屋の片付けや身支度も協力して行っていました。
大きな喧嘩もなく穏やかに楽しく過ごし、迎えた2日目の夕食前。身支度の済んだ子から、一緒に食事処へと移動するために廊下に並んでいました。並び始めた子どもたちの様子を見つつ私自身も支度をしていると、列の先頭からすすり泣く声が。2年生のYくんでした。
「どうしたの?何かあった?」
そう問いかけると、そばにいた4年生のHくんが
「1番がよかったのにダメって言われて泣いちゃった。」
と教えてくれました。
毎回列に並ぶときには誰よりも早く支度をして一番前を勝ち取ってきていただけに、誰かにとられたのが悔しかったのでしょう。Yくん本人を列から少し離れた場所に呼んで話を聞きました。
「そうか、Yはどうしても1番がよかったのね。」
「だって僕もう1番で並んでたよ。なのにダメって言われたんだよ。」
泣きながらYくんが答えました。
「え、そんなあ。なんでダメなのかな?」
「もう1番決まってるからって言われた。」
どうやらYくんのいない場所でじゃんけんに勝った人が1番になるというルールを設定していたようでした。故意に仲間外れにしていたわけではなくたまたま離れた場所にいて聞けなかっただけとのことでしたが、たしかにそれはYくんの納得がいかないのも頷けます。
「なるほどね。それでYは嫌だったのか。」
「うん。〇〇、みんなに僕を1番にしてって言ってよ。」
私は少し悩みました。ここで私がみんなに声をかけるのは簡単です。ただ、そうしてしまうと、Yくんが今後壁にぶつかったときにこうやって近くの人を頼って自分で解決できないままになってしまいます。
「たしかに、後から急にダメって言われたら納得できないよね。こういう時はね、『聞いていないから嫌だ』って直接はっきり言ってみるといいよ。泣いて主張してもなにが嫌なのか伝わらないからさ、言葉にして伝えてみて。そうすればみんなも考えてくれるよ。」
「…言ったら聞いてくれるかな?」
Yくんは小さな声で聞きました。
「もちろんだよ。お兄ちゃんたち、みんな優しいでしょう。〇〇班は仲良しだから大丈夫。」
「そっか、わかった。頑張ってみる。」
涙も止まり、Yくんは私のほうを見てしっかりと頷きました。
いつの間にか近くに来て心配そうに事の成り行きを見守っていた班のメンバーが、そっとYくんの肩を抱いて迎え入れました。Yくんが恐る恐る
「嫌だった。」
と言うと、彼らはごめんねとYくんを優しく列の一番前に誘導しました。
私は子どもたちに、野外体験という子どもだけのミニ社会の中でしか経験できないもめごとや壁にぶつかる経験を通じて、人間的に成長していってほしいと考えています。大人が「仲良くしなさい」と伝えたり謝るよう促したりすれば一瞬で解決できることではありますが、子ども同士で話し合って決めることに価値があるのだと私は思います。
子ども同士でぶつかり合って意見や価値観が違う人の存在を知り、自分の気持ちに折り合いをつけながら互いに納得のいく案に落とし込む。そういう経験を積み重ね、相手を慮る心や気持ちの折り合いのつけ方を学んでいくのだと改めて感じた出来事でした。