【85】2190日

 「あれー、ひまわりどこだろー。ねぇ先生、ひまわりないよー?」
年長さんのAちゃんは、大人が自分の近くに来るまでは絶対にテキストであるひまわりを出しません。
「あ!あった!なんで見つからなかったんだろう?ねぇ先生、Aちゃんまだ名前自分で書けないから一緒に書こう!Aちゃん、先生と一緒に名前を書きたいなぁ。」
甘え上手なAちゃん。どうすれば助けてもらえるのかを良く心得ています。
 授業中も、次のページに移動するとき、
「まって!まって!まってよー!ねぇB君、どこを開けばいいの?」
お友達に聞くことがしばしばありました。
「Aちゃん、自分でできるからお話を聞いて、自分の力で頑張ってみようね。」
と伝えては、
「だって、Aちゃん、まだ子どもなんだもん!」
同じ答えが返ってくるのでした。

 そんなAちゃんがある日、がらりと変わりました。
「先生!今日の花まるの荷物はね、Aちゃんが準備したんだよ!ひまわりだって、ほら!」
 いつもなら先生にかまってほしいからテキストを出さなかったAちゃんが自分からテキストを出したのです。
「自分で準備したの!?すごいね!」
Aちゃんの頑張りを褒めようとする間もなく、
「よーし!名前だって書いちゃうよ!ファイルに名前がかいてあるからそれを見ればいいよね!」
なんと名前まで自分で書こうとするではありませんか。鏡文字になっているところもありましたが、今まで書いた名前の中で間違いなく一番素敵な字でした。
「先生、次は〇ページだよね!Aちゃんもう開いちゃったよ!B君、どこかわかる?教えてあげようか?」
 テキパキAちゃんの快進撃はまだ終わりません。今まで助けを求めていたB君のことを気にかける優しさもみせていました。
 Iキューブの時間、Aちゃんの動きがぴたっと止まりました。一瞬表情が暗くなったかと思うと、ぶるぶると顔を振って、笑顔に戻りました。
「先生、AちゃんIキューブ忘れちゃった。だから貸してください!」
甘えん坊Aちゃんだったら確実にママのせいにしていたところ。ママに文句をいうことなく、Iキューブが終わったら、「ありがとうございました!」とお礼までいうことができました。テキパキできすぎて少し怖いぐらいです。
 授業終了間近、Aちゃんに質問されました。
「先生、何歳?あ!天才とか野菜とかじゃなくて、本当の年を教えてよね!」
「先生は24歳だよ!」
本来は18歳と答えたいところを、気持ち高めの年齢を伝えました。
「なーんだ!先生、もうおじさんじゃない!私なんてもう6歳だよ!5歳は子ども。6歳はお姉さん。園で一番年上なんだから!」
 Aちゃんの雰囲気が変わった原因が判明しました。最近誕生日を迎えたばかりのAちゃん。6歳になったことで、園で最年長のお姉さんとして相応しい人間になろうと頑張っていたのです。Aちゃんは、サザエさんのように何年も24歳を繰り返している私に、年を重ねることの素晴らしさを思い出させてくれました。

「あれー?ひまわりないよー?」
教室には甘えん坊Aちゃんの声が鳴り響いています。今日はテキパキAちゃん、お休みでしょうか。
「ひまわりあったね!名前は自分で書けるから先生はあっちに行っていて!」
どうやらそうでもないようです。6歳の誕生日を境に、ちょっとだけお姉さんになったAちゃんなのでした。
 子どもたちと過ごしていると、こうあってほしいと望むこと、心配することは多いですね。見守る側も肩の力を抜いて、3歩進んで2歩下がるくらいのペースで子どもの成長を楽しんでいきたいですね。

 

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