【87】協力って難しいな!
今月は算数大会を行いました。大会の日に子どもたちが期待しているのが優勝とMVP。特に、MVPは数人だけが選ばれる特別賞です。
初めに、大会の日に大切にしてほしいことを伝えました。それは「協力」です。ただ正答率が高いだけでは、優勝やMVPは手にできません。悩んでいる子にヒントを出したり、お互いの解答を見比べて見直しをしたり、周りの子を応援したり…。自分だけ高得点ならいいというわけではないのが花まるの大会だと、私は考えています。
これを子どもたちに伝えるとき、いつも頭に浮かぶ二人がいます。それは、かつて私のクラスにいた6年生の男の子です。
その二人はもともと仲が良く、一方が算数のテキストの発展問題に手をつけると、もう片方も競うように解き始めるような、友だちであり、よきライバルとも言える関係でした。彼らは大会のときも下の学年の子をサポートするのですが、その様子は対照的です。
Tくんはチームのまとめ役。みんなの声を聞き、チームの意見を形にしていきます。また、なかなか答えが出せず行き詰まっている子を見ると、「ここまでは合ってるから次は…」と導いてくれます。4年生、5年生の子たちは、Tくんをリーダーとして信頼していました。
一方のSくんは背中を押してくれる存在。発表するかどうか迷っている子を、「いけるよ、大丈夫!」と応援します。この言葉は安易に発したものではなく、自分で考えた答えなのだから自信をもってという思いが感じられます。各自で考える時間も、Sくんは「それ、いいやん!」「なるほど~」と、同じチームの子にたくさん声をかけていました。
みんなを引っ張っていくTくんと、支えてくれるSくん。アプローチは違いますが、二人とも周りの様子をよく見て、手を差しのべます。一口に「協力」と言っても、さまざまなやり方があるのだなと彼らを見ていて思いました。
さて、今回の算数大会が始まりました。初めは一人で取り組んでいた3年生のYくん。ひととおりやってみたあとで、解けなかった問題に戻ってきました。もう一度考えますが、答えが出ません。私がそばを通ると、Yくんと目が合いました。
「先生~、もうわからへん…」
「大丈夫、自信もって!わかるところだけでも、隣の子にヒントを出してあげてね」
この言葉を聞くと、Yくんは隣の1年生をじっと見つめました。そして、この答えは合っている、それは違うと説明を始めます。
しばらくして再びYくんのところに戻ってくると、また頭を抱えていました。今度は、まだ解けずに残っていた問題に取り組んでいます。たまに隣の子を気にして一言二言口にしますが、自分も解けていないだけに、説明もなかなか伝わりません。そんなことを繰り返すうちに、突然Yくんが
「先生!協力って、難しいな!」
とんでもなく重大なことに気づいたという口調で言いました。そうなんです。自分の考えを伝えようとしても、理解してもらえなかったり、はね返されてしまったり、スムーズに受け取ってもらえないこともあります。そんなふうに、うまくいくことばかりではないとYくんが知った瞬間でした。
答え合わせのあとのこと。
「あー、協力したからめっちゃ汗かいたわ!」
そう言ったYくんの表情は、とても満足しているようでした。問題が解けない苦しさや言いたいことが伝わらないもどかしさはあったけれど、やりきったのでしょう。6年生の二人のようなリーダーシップではなくても、「自分も悩みながら一緒に考える」ことがYくんなりの協力でした。
実はYくん、普段の授業では作文の時間になると、机の下に隠れるような子でもあります。そんな彼が、苦戦しながらも協力する姿勢を見せました。大会という特別な日だからこそ伝わること、気づくことがあります。Yくんにとってそれは「協力の難しさ」と「達成感」でした。
これから先、立場や価値観の違いに悩んだり、そもそも答えがない問題にぶつかったりすることもあるでしょう。そんなとき、無理だと思ったらストップするのではなく、なんとか乗り越える力。今回のYくんのように、前に進むきっかけをこれからも作っていきたいと思います。