【84】できないバリア
先週の年長クラスでは思考実験大会「ぶんぶんごま」を行いました。教室に到着した段階で子どもたちは二つのパターンに分かれます。一つは事前に練習してきて「できるよ!」と自信満々の子。もう一つは「できない…」とテンションの低い子です。既に気持ちに差のある子どもたちですが、席に着いた後にもう一波乱。事前に練習してきた子が意気揚々とぶんぶんごまを取り出し、勢いよく回し始めます。こまは回り始めて、ピタリと止まります。「あれ?」となり、二回目の挑戦、しかし上手くいきません。「お家ではできてたのに…。」さっきまでの元気はどこへやら、すっかり意気消沈してしまいます。
少し重くなってしまった教室の雰囲気と子どもたちの気持ちの切り替えも兼ねて、元気よく挨拶をして、授業を始めます。まずは練習の時間です。しばらくの間は皆黙々と練習をしています。そうしているうちに、勘を取り戻した子、コツを掴んだ子が回し続けられるようになります。「できた!先生見て見て」と言う声がちらほら聞こえ始めます。
一方、その声を聞いて「できない!」の声も同様にあがり始めます。それを聞いて、焦りや、不安な気持ちがこみ上げてきて、さらに落ち込んでしまう子もいました。もうこまの練習なんて止めて、他のことをしようというような子もいました。そういった子には「一緒にやってみよう」や「さっきのは惜しかったね」と声をかけ、手を持って一緒にこまを回してあげます。もしくは私がこまを回した状態から「先生の手の真似をしてごらん」と言って、紐を引っ張る、緩める動きのタイミングを真似させます。そして回しているこまを渡すということもしました。ほとんどの子が紐を引っ張ったり、縮めたりのタイミングを掴めていないことが原因のため、タイミングさえ掴めれば回し続けることができます。そうして回せるようになると、さっきまで表情を曇らせていた子も、パッと一瞬で表情が変わり、晴れ晴れとした笑顔で「できた!できた!」と大喜びでした。まあ、その大喜びの興奮で手が止まってしまって、こまも止まってしまうのですが。一回コツを掴むと自分でも回すこともできるようになるので、その後は自分で回せたという子も多くいました。
最初はこまを回せなかった状態から回せるようになった子にはある共通点がありました。それは「できない」という言葉が消えていくということです。「できない」という言葉には強い自己暗示のような力があります。この言葉を発しながら、あるいは発した直後の練習でできるようになった子はいませんでした。また、この言葉は子どもたちにとってバリアなのだと思います。このバリアによって、外からの「なんでできないの」から自分を守ることができます。しかし、同時にそのバリアは殻となり、その外側へ成長していくチャンスも無くしてしまいます。このバリアを破る言葉が「惜しい!」と「一緒にやってみよう」です。これらの言葉をかけられた子からは「できない」という言葉が消えます。それはその後に続くであろうアドバイスをしっかりと聞こうとするからです。そうして黙々と練習するようになり、バリアが消えてから程なくして、「できた!」の声が聞こえてくることがほとんどでした。
「できない」を乗り越えた瞬間の子どもたちの表情は喜びと自信に溢れています。それは自身の成長を感じる喜びと「自分はできるんだ!」という自信だと私は思っています。またそれを認められることがその成長をさらに加速させていきます。今後も教室では子どもたちの成長と成功を認める声かをけどんどん行ってまいります。