【83】ひよこの数は30個

 年中の教室では『外遊び』の日があります。女の子3人と男の子1人、とても仲良しな4人クラス。普段の授業も発言が多く、みんな一で緒に楽しもうとしていることが伝わってきます。「外遊びに行こう!」と子どもたちに伝えると、
「やったー!」「どこ行くの?」「こうえん?」
と大喜び。矢継ぎ早に質問が飛び交います。向かうのは近所の小さな公園。60分の授業中、公園で遊ぶのは30分ほど。一番楽しいのは探検気分を味わえる道中です。私はいつも、何か1つテーマを設けながら歩くようにしていました。
『赤色を見つけよう』
『三角はあるかな?』
『この前来た時にはなかったものは?変わったものは?』
 子どもたちは目を輝かせてあちこちを見ていくものですから、歩調はゆっくりになります。
「あった!」「葉っぱの色がちがう!」
と大はしゃぎ。道行く人が微笑ましそうに見守ってくださるとても素敵な町だったので、子どもたちも挨拶をしながら楽しく歩を進めました。
 あるとき、
『タイルの数を数えてみよう!』
というテーマにしました。道に敷き詰められたタイルが何枚あるか数えてみる。最初はみんな、
「1、2、3…」
元気よく数えていました。30をこえたあたりから、4人の中で反応が分かれ始めました。
 数え続けて50を突破した2人は、
「100まであるかな?!」
と嬉しそう。もう2人は、
「いっぱいあるねー」「あ、お花ある」
と数えるのをやめてしまいました。どこかのタイミングで、また楽しくなって数え始めるだろうと思って、私は大きな声で数え続けました。数えなくなった2人の目がまた輝いたのは、95くらいから。年中さんの子どもたちにとって、100は特別な大きい数字なのだと感じました。
「100!」
と言ったときの嬉しそうな顔といったら!そして、ずっと数え続けていた2人の達成感に満ちた顔は、忘れられません。

 さて、4人の年中さんの反応が2つに分かれたように、数に対しての感覚は人によって違います。紙の束や、転がるビー玉を見て、
「いっぱいある!」「すくなーい」タイプか、
「50ページあるよ!」「20個入っていた!」タイプか。
 私は前者のタイプなのですが、2つ下の弟は、根っからの後者でした。フリーマーケットで箱入りのひよこ人形を買ったとき、私は
「いっぱい入っていていいなー!」
と思いました。弟は、
「これ、30個も入ってるよ!」
 すぐに中身を数え始めたのです。「へー、たくさん入っているなー」とその頃の私は感心しただけでした。他にも、ご飯のおかわりは分数で量を伝えたり、5円玉だけを集めていくらなのかを数えたり、本は何冊買ってもらったのかを数えていり…。私が『いっぱい!』『少なめで!』と応えるところも、きっちり数字で伝えたり、考えたりしていたのです。今考えても弟の数のセンスは、『普段から数えること』で磨かれていたのだと分かります。今でも数字を扱う仕事をしているので、今日もどこかできっちり数えているのだろうと思います。
 計算がゆっくりだったり、数えているうちに飛んでしまったりする子がいます。いろんな理由がありますが、一番は『数え慣れていない』ことが多いです。『いっぱいある!』タイプですね。それは物事を抽象的に捉えることが上手な子でもあります。数える子も、数えない子も、意図的に、さりげなく、数を数えるお手伝いやお買い物の中で、自然と数えることを生活の中に組み込んでいくと、数え慣れていくでしょう。おやつのファミリーパックやミニトマトを家族分、日数分に分けてみたり、読書ラリーのページ数を自分で数えたりなど、夏休みのお手伝いに1つ、組み込んでみてはいかがでしょうか?

 

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