【82】遊びは子どもの主食

 「なにこれ!新しい積み木だ~!」A君が手にしたのはマジカルスティック。木でできた細長い棒が何本も箱に入っている教具です。全て同じ長さ、同じ形で、年長さんで使うテキスト「ひまわり」の中では、テキストに書いてある見本と同じように形をとらえて自分の手で作ってみたり、マジカルスティックで作った「5」の数字から1本だけ動かして「3」にする思考力問題などを取り組んだりします。
 「ひまわり以外でもこれで遊びたいよ!」とA君。「そうだね!せっかくだからこれで遊んでみよう」と言うと「やった~!」と飛び跳ねるように上半身を動かして喜ぶA君。横で遊んでいたBちゃんは、マジカルスティックを積み上げて「トントントン、カンカンカン」と口ずさみながら何かを建設中。「見て見て!家を建ててみたよ!」と言った瞬間「ガッシャーン」音を立てて作ったお家が崩れてしまいました。「あー!せっかく作ったのにー!」と落ち込むかと思いきや「次はこの棒で筆箱を使って強くして倒れにくくしてみる!できるまで先生待ってて!」と再チャレンジ。再びA君の方を見ていると、どうやらマジカルスティックで迷路を作っている様子。「面白そうな迷路だね!」と言うと「迷路じゃないよ!マリオカート!先生マリオカート知ってる?」とA君。「3・2・1ゴー!ヒューン、ブイーン!」と効果音をつけながら作ったレース場の中をマジカルスティックで作った車を走らせて遊んでいました。私の想像を超えて子どもたちが目の前の物を最大限に使って遊んでいる姿に、驚かされました。

 太陽が沈みかかって空がオレンジ色になった夕方。
 横を走る車の音を気にしながら重たいランドセルを持って、道路側溝の細い部分を歩く2人。
 「わ~~まほちゃんワニに食べられてるー!」
 「まだ1回しか食べられてないもん。Aちゃんはもう3回でしょ!」
 「回復ポイント踏んだから0になったもんね~!」
 昔通っていた小学校までの通学路での出来事を、つい先日夕方歩いていた時に思い出しました。当時私は、大親友だったまほちゃんと女の子らしく恋話をして、自分たちで考えた遊びをしながら毎日一緒に帰っていました。当時を思い出す遊びは自分たちで考えて作った遊びばかり。「お団子を作る時はこの砂とこの砂とこの砂を使って作るとつるつるになるからこの砂を集めに行こう!」と色々な公園を巡ったり、「ここから誰にもみつからないようにあの公園まで行こう。見つかったらマイナス1点!」と探偵ごっこをしたり、何かと自分たちで面白いことを考えては遊んでいました。

  マジカルスティックの遊びも、私の子どもの頃の遊びも、大人が与えた遊びではなく何もないところから子どもたちが作り出した遊びです。子どもは2歳前後の一人遊びをし始めるころから遊びに対してイメージを持ち始めます。例えば、お人形のお世話をしたり、小さなビーズをご飯に見立てたり。これらは自分が今まで見聞きしたことや経験したことを遊びに結び付けて自分で考えている遊びです。想像した通りにいかないとき、「こうしたらさっきうまくいかなかったことがうまくいくのではないか」「これをつけ足してみたらもっと面白いんじゃないか」と頭の中をフル稼働して新しい遊びを見つけていきます。さらに、自分で考えた遊びをお友だちとシェアして新しい刺激を受けることにより、遊びの世界がどんどん広がっていきます。 

 こんな風にしたら面白いんじゃないかという想像力、うまくいかなかった時にさらに良くしようとする向上心、ルールを守る規律性、お友達と楽しく遊ぶコミュニケーション力…「遊び」でどんな力が身につくのか考え始めると書き終えられないくらいありますね。子どもにとって「遊ぶ」時間は、学びの主食のです。勉強ももちろん大事ですが、思いっきり遊ばせることが子どもにとって一番の勉強になるのかもしれません。

 

まえへ  つぎへ